40 勇者は、解析をする
――重い。
ただそれだけで、このゴーレムがどれほど危険な存在か分かった。
俺は剣を全力で振り下ろす。
だが、刃はゴーレムの腕に弾かれ、火花を散らしただけだった。
「……硬っ」
間髪入れず、ゴーレムの拳が振るわれる。
風圧だけで床の砂埃が舞い上がり、俺は咄嗟に後方へ跳んだ。
直撃していたら、防具ごと骨が砕けていただろう。
(物理耐性、高すぎ……)
土魔法で地面を盛り上げ、動きを封じようとする。
だがゴーレムは一歩踏み込むだけで、それを粉砕した。
力も、重量も、純粋な兵器。
魔族の魔法的な技巧とは別方向の厄介さだ。
『敵性人類……排除……』
無機質な声。
そこに感情はない。だが、迷いもない。
俺は距離を取りながら、千里眼で内部を覗く。
胸部。
いや、正確には――腹部の奥。
(……あった)
複雑に絡み合った魔法陣。
それが、このゴーレムの“核”だ。
だが、問題は――
(これ、現代の術式と全然違う……)
構造は古い。
理屈は分かる。
だが、書き方が違う。
まるで、言語が違う文章を無理やり読まされている感覚だ。
その間にも、ゴーレムは迫ってくる。
俺は咄嗟に壁を蹴り、天井近くへ跳ぶ。
だがゴーレムは、信じられない動きで壁を蹴り、同じ高さまで拳を振り上げてきた。
「……マジかよ!」
剣で受けるが、衝撃で腕が痺れる。
着地と同時に転がり、距離を取る。
(正面から倒すのは無理だ)
火力が足りない。
削れる気がしない。
俺は、ふと気づく。
(……こいつ、命令を確認してたな)
「戦争終結、未確認」「命令、不明」
(ってことは――)
今も、古い命令を実行し続けているだけ。
俺は剣を構え直しながら、魔力を指先に集中させる。
(停止命令……いや、もっと根本からだ)
ゴーレムが、再び突進してくる。
俺は、わざと正面に立った。
『……?』
ゴーレムの動きが、ほんの一瞬、鈍る。
その隙に、俺は腹部へ滑り込む。
――ドンッ!
体当たり同然に魔力を叩き込み、同時に術式切断を発動。
絡み合った魔法陣の一部が、ぷつりと途切れた。
『命令……遮断……?』
ゴーレムの動きが止まる。
完全停止ではない。
だが、判断が遅れている。
(今だ)
俺は千里眼を最大まで広げ、魔法陣を読む。
構文は単純だ。
命令者識別、敵性判定、行動優先度。
(……人類=敵、って雑すぎだろ)
俺は、歯を食いしばる。
(なら、書き換える)
魔力を、慎重に流し込む。
乱暴にやれば、暴走する。
俺は、ゆっくりと言葉を刻む。
『命令……変更……』
ゴーレムの魔法陣が、不規則に明滅する。
『新規識別……』
俺は、自分の魔力を鍵として流し込んだ。
「新しい命令者は……俺だ」
しばしの沈黙。
地下が、静まり返る。
『……確認……』
ゴーレムの目の光が、一度消え――
次の瞬間、穏やかな青に変わった。
『命令者、認識』
ゴーレムは、ゆっくりと膝をついた。
『待機命令、受領』
俺は、その場にへたり込んだ。
「……成功、か」
全身から、力が抜ける。
これが失敗していたら、今頃俺は瓦礫になっていたはずだ。
ゴーレムは、静かに動かなくなった。
だが――
(人類が、こんなものを作ってた時代があった、か)
魔王より前。
魔族より前。
戦争を終わらせるために、戦争を作り続けた時代。
俺は立ち上がり、ゴーレムを見下ろす。
「……悪いな。今度は、俺の命令を聞いてもらう」
ゴーレムは、無言のまま待機していた。
魔王城の地下で、俺は「兵器」を一つ手に入れた。
それが吉と出るか凶と出るかは――
まだ、分からない。




