8話 デート
土曜日。
ショッピングモールの休憩所でスマホをいじる。
最近リリースされたソシャゲは難易度が高いけど、でも、やりごたえがあって面白い。
なんてゲームに夢中になっていると……
「おまたせしました」
宮ノ下が姿を見せた。
いつもは可愛いと思うような服装だけど、今日は綺麗と思うようなコーディネートだ。
それと、ふわりと柑橘系の匂いがする。
たぶん、香水だろう。
でも嫌な感じはしない。
さりげなく香る程度なので、むしろプラスに働いている。
「……」
「ふふ、どうですか? 普段よりも大人な私に、結城さんはドキドキですか?」
「確かに……うん。ドキドキかどうかよくわからないけど、素直に驚いた」
「そ、そうですか……ふーん、そうですか。私、可愛いですか?」
「うん、可愛い」
「……す、素直ですね? さては、なにか企んでいますね? 私はちょろい女の子ではありませんよ」
「いや。本当に可愛いと思うよ」
「もう、好きです! 大好きです!」
ものすごくちょろくないだろうか?
「良いと思うよ。俺は、ファッションとか疎いけど、それでもわかるくらい、いいと思う」
「そうですか……えへ、えへへ♪ もう、結城さんは、私を喜ばせるのが得意ですね」
宮ノ下は平静を装っているけど、わりと照れている様子だった。
「と、とりあえず行きましょうか。デートの時間は有限ですよ」
「オッケー」
「では、レッツゴー、です♪」
――――――――――
宮ノ下の気持ちにきちんと向き合うと決めたから、できる限りは応えないと。
なので……
デートに誘われ、デートをすることになった。
「ふっふっふ、今日は私の超絶テクで結城さんを虜にしてあげますよ」
「その手の動き、やめない?」
おじさんくさいぞ。
「今日は私が結城さんをエスコートしますね」
「了解、お願いするよ」
「ではでは、出発です!」
宮ノ下が先導する形でショッピングモール内を進み、安さが売りのアパレルショップに到着した。
「まずは、ここでショッピングです」
「宮ノ下って、ここを利用するんだ」
「意外ですか?」
「正直に言うと」
このアパレルショップは安さが売りなので、ブランド力というものはあまりない。
だから、女の子はあまり興味がないと思っていた。
「その認識、ちょっと古いですね。ブランドを重視する子はいますが、逆に魅力を感じない子の方が増えてきています。ブランド? だからなに? という感じで。ブランド品が絶対に流行るということはないですからね。他にもいいものはたくさんあります」
「そう言われると……」
「最近はこういうところでも可愛い服がたくさんあるんですよ? 流行に乗るのは大事ですけど、でも、自分好みの服で固めたいじゃないですか」
「なるほど」
「なにより、安い。小学生の身にはとてもありがたいです」
「結局、そこなんだ」
苦笑してしまう。
金銭感覚はすでに大人のようだ。
「結城さん、私に似合う服を探してくれませんか?」
「え。俺、ファッションセンスなんてないと思うけど……」
安さと着心地重視。
よほどの色物でない限り、服のデザインを気にしたことはない。
「好きな人に選んでほしいんです。そうやって、好きな人の趣味の服を着ることで、染められている、っていう感じになりたいんですよ♪」
「……わかった、がんばるよ」
そう言われてしまうと断ることはできない。
恋人ではないけど、宮ノ下に喜んでほしいという気持ちはある。
「んー……これなんてどうかな?」
ふんわり長めのスカートを手に取る。
淡いピンクをエッジの効いたデザインで仕立て上げていた。
「おぉ。結城さん、いいものを選びますね。うんうん、すごくいい感じです」
「よかった。でも、これに合うものを選ぶのが大変なんだよな」
「上は私が選びますよ。結城さんとの愛の共同作業ですね♪」
「言い方」
――――――――――
「うーん、こんなところでしょうか? 本当は、あと二時間くらい選びたいですが」
「いいよ」
「えっ、いいんですか? すでに、けっこうな時間を選んでいますが」
「女の子の買い物って、そういうものだろう?」
「むむ、なんていう理解力……やりますね」
そこで褒められても。
「でも、これ以上、結城さんを連れ回すのは申しわけないので、ここまでにしておきますね」
「俺は構わないけどな」
「え?」
「大事な友達のためだから」
「……もう、もうもうもうっ。そういう言葉は、友達だ、とか言われても、ものすごく嬉しくてキュンと来るものなんですよ。気軽に使うと、私が死んじゃいますよ?」
「死ぬの?」
「萌え死です」
「やな死因……」
むしろ、それは男側が使うものでは?
「とにかく……じゃあ、お会計をしてきますね」
服を選び終えて、宮ノ下はるんるん気分で会計に向かう。
俺が出そうかと思ったけど、「最初のプレゼントが適当なものなんてイヤです」と断られてしまった。
適当なつもりではないんだけど……うーん、女の子って難しい。
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