73話 色々とおかしい
「私が正室で、小柳先輩が側室。二人で一緒に恋人になる、というのはどうでしょうか!?」
「うん、いいよぉ」
まてまてまて。
なに、とんでもない提案をしてくれているんだ?
それと、小柳先輩も笑顔で了承しないでください。
「鈴、いったいなにを言っているんだ……?」
「これが最適解なんですよ」
ドヤ顔で鈴が語る。
「私は、直人さんが好き。小柳さんも、直人さんが好き。恋愛に関して、これは、どちらも譲ることができない。でもでも、私は小柳さんのことも好きなので、争いたくなんてありません。そ・こ・で……私達二人と一緒に付き合う、ということなら全ての問題が解決しますよね!?」
ぜんぜん解決しない。
もしもそうなった場合……
俺は、小学生と小学生のような先輩と二股をかけている、最低野郎になるじゃないか。
事案の確率がより一層高くなる。
「小柳先輩からも、なにか言ってやってくださいよ……」
「え? でも、いいアイディアだと思うな」
「ちょっ」
「私も、宮ノ下さんと争いたくないし……それよりも、一緒に協力して、結城君を振り向かせる方がお得だよね♪ 二人がかりでアプローチすれば、成功率はニ倍になるし」
意外としたたかなところもあった?!
「ナイスですね!」
「でしょう? えへへ♪」
「直人さん、けっこうガードが固いんですよ。私、けっこう色々なことをしたんですけど、未だに手を出してくれなくて……」
「あ、それわかるかも。結城君、とても真面目なんだけど、恋をしている方からすると、ちょっともどかしいところがあるよね」
「ですよね!? ですよね!? 私も、何度、涙を飲んだことか」
「女の子泣かせだよねー」
「ですです!」
……おかしいな?
修羅場を覚悟していたんだけど、二人は、妙な方向で意気投合してしまった。
もしかして似た者同士?
だとしたら危険だ。
鈴が二人になったようなもの。
今まで以上に、俺は、平穏な時間を送ることができなくなりそうで……
混ぜるな危険!
っていうやつを、意識せずにやってしまったのか……?
「これからは、直人さんを落とすために一緒にがんばりましょう!」
「うん! よろしくね、宮ノ下さん」
「私のことは、鈴でいいですよ」
「じゃあ、私も、瑠璃で」
「はい、瑠璃さん!」
「よろしくね、鈴ちゃん」
ガシッと握手を交わす二人。
こうして……
意図せぬところで、まったく予想外の同盟が結成されてしまうのだった。
うーん……
俺の運命で、神様のおもちゃにされているのだろうか?
ついついそんなことを考えてしまうのだった。
――――――――――
「……と、いう話がもしもあったとしたら、どう思う?」
夜。
家に帰った俺は、クラスメイトで友達の藤太に相談してみた。
もちろん、詳細はぼかしている。
『え? 爆発しろ?』
「いや、感想じゃなくて……」
『倫理観はともかく、同意の上で二人と付き合うことができるなんて、最高のリア充じゃん。爆発しろ、以外の感想はないと思うぞ』
「だから、感想じゃなくて、どうすればいいか聞きたいんだ。その友達も、かなり悩んでいるんだよ」
『友達、ねぇ……』
藤太にはバレているかもしれないな。
でも、あえてツッコミを入れないところを見ると、気を使ってくれているのだろう。
『別にいいんじゃないか?』
「え?」
『当人達が納得しているんだ。倫理観が、とか。常識が、とか。そういうのは外野が言うべきことじゃないだろ? 結婚とかになると、また別の問題が出てくるけど、付き合うだけなら、とやかく言われる筋合いはないだろ』
「いいのか、それ……?」
『いいんだよ。繰り返すけど、当人達が納得しているんだから』
「とはいえ、なぁ……」
『世の中、色々なマイノリティが認められてきている時代だろ? なら、三人で付き合うことも認められたっていいじゃないか。それだけ認めないってのは、差別になるぜ?』
その考えはなかった。
屁理屈にも聞こえるが……
でも、納得させられてしまう説得力もあった。
『それに、まだ付き合う前なんだろ? なら、三人で仲良くしているだけ。そこにどうやって口を挟め、っていうんだよ。無理だろ。その時点で口を挟むのは、よっぽど空気の読めないバカしかいないだろ』
「……お前、時々、かなり辛辣になるな」
『ま、色々と経験してきたんでな』
「おみそれしました」
俺の友達が、俺が思っていた以上にすごいのかもしれない。
『とはいえ、最終的な判断は直人にかかっていること、忘れるなよ?』
鈴と付き合うのか。
小柳先輩と付き合うのか。
二人と付き合うのか。
あるいは、どちらも振るのか。
それを決めるのは、俺だ。
俺が、三人の関係の最終的な形を決める立場にある。
「わかっているよ」
なかなか重い立場だ。
でも、逃げるわけにはいかない。
目を逸らすわけにはいかない。
きちんと向き合い……
そしていつか、答えを出さないとな。




