72話 修羅場……?
「……」
「……」
いつも利用するハンバーガーチェーン店。
その一角の席で、とても気まずい沈黙が流れていた。
メンバーは、俺と鈴と……そして、小柳先輩だ。
「フシャー……!」
鈴は俺の隣の席を陣取り。
子猫のように威嚇している。
「……」
対する小柳先輩は、ちょっと困った様子。
……小柳先輩に告白された後。
絶対にトラブルになるとわかっていたものの、鈴に内緒にしておくことはできず……
また、小柳先輩も話していいよ、と言っていたため、告白のことを正直に打ち明けた。
そうしたら鈴は、リアルで話をしたいを言い出して……
小柳先輩も了承して……
そして、今に至る。
「やっぱり、泥棒猫がいたんですね」
鈴は、ギロリと小柳先輩を睨む。
対する小柳先輩は、申しわけなさそうに言う。
「ごめんなさい。結城君のこと、宮ノ下さんのこと。話は聞いたんだけど、でも、我慢できなくて……」
「むぅ」
素直に謝罪をされて、鈴は戸惑う。
開き直られるか、あれこれと言い訳をされるか、そんな展開を予想していたのだろう。
正直なところ……
俺はともかく、小柳先輩が謝る必要はない。
好意は寄せられているものの、まだ恋人関係に発展していない。
そんな人を好きになったとしても、それは、悪いことじゃない。
恋愛に先着順ということはないのだから。
でも、小柳先輩はそれを良しとしなかった。
ちゃんと話をしたいと、鈴と向き合うことにした。
なかなかできることじゃないと思う。
「改めて自己紹介しますね。小柳瑠璃。結城君の通う学校の3年生で、一つ上です」
「……宮ノ下鈴。10歳、小学四年生です」
空気が重々しい……
でも、バチバチとぶつかるような雰囲気はない。
今のところ、理性的に話ができているのかな?
「直人さんは、どうして、こんな人を私に紹介したんですか?」
「下手に隠すよりは、もういっそのこと、正直に全部打ち明けた方がいいかな、って」
「だからって……!」
「もしも隠していて後で発覚したら、絶対に、今以上にこじれるだろう?」
「それは……」
その通りかもしれないと、鈴の勢いが弱まる。
「ごめんね、宮ノ下さん。全部、私が悪いんだ」
小柳先輩が申しわけなさそうに言う。
「結城君に恋人はいないことは知っていたけど、たぶん、誰かに好かれているんだろうなあ、っていうのはわかっていたの。でも、まだ付き合っていないなら私にも……って考えて。それで、つい」
「むー……」
鈴としては不満はあるのだろう。
しかし、恋愛に先着順がないことを理解しているため、強く言うことはできない。
私が先に好きになったんだから引っ込んでなさい!
と言えるようなら、どんなに楽か。
「最近、色々とお世話になっているのに、その恩を仇で返すようなことをしちゃって、それは本当にごめんなさい」
「ん? 私、なんかお世話しましたっけ?」
「師匠には、色々と助けてもらっていますから」
今だけ、ファンネクの口調で言う。
そんな小柳先輩を見て、鈴はぽかーんとして……
「えぇ!? もしかして、ルリさん!?」
おい、待て。
今の今まで気づいていなかったのか?
「まさか、ルリさんが泥棒猫だったなんて……」
「うぅ、ごめんね……」
「そうしたら、いえ、そんな、えっと、むうううっ……」
唸るような声をこぼしつつ、鈴は両腕を組んで悩む。
頭を右に左に、メトロノームのように揺らす。
鈴にとって、『ルリ・コヤナギ』は、フェンネクの世界で、俺の次にできた大事な友達だ。
そんな彼女と争うようなことはしたくない。
しかし、恋を譲ることもできない。
争いたくない。
でも、自然とライバルになってしまった。
この状態を解決するには?
鈴は、鈴なりに色々と考えて、打開策を探しているようだ。
「……直人さん、確認したいんですけど」
「うん、どうぞ」
「ルリさん……小柳さんからは、告白されただけなんですよね? 私じゃなくて、小柳さんを選んだ、という話じゃないんですよね?」
「告白されただけだ。俺はまだ、小柳先輩と付き合っていないし、その予定もない」
「私とは?」
「それも……もうしばらく考えさせてくれると嬉しい」
「ふむふむ」
鈴の中で話がまとまりつつあるようだ。
問題が解決するのなら、それは嬉しいことなのだけど……
彼女の場合、たまに、とんでもない解決方法を導き出すからなあ。
それが怖い。
「よし!」
ややあって、鈴は身を乗り出して、小柳先輩の手を取る。
「小柳さん」
「う、うん!」
「私が正室で、小柳先輩が側室。二人で一緒に恋人になる、というのはどうでしょうか!?」
「うん、いいよぉ」




