7話 バレた
「今のお客様だけど……」
「あ、はい。なんですか?」
「結城君のことが好きなの?」
ピシリ、と全身が固まる。
もしかして、俺と宮ノ下の会話を聞かれていた……?
いや、まて。
まだそうと決まったわけじゃない。
従姉妹とかそんな感じで、うまいことごまかせば……
「結城君が初恋の相手、とか聞こえたんだけど」
はい、無理。
「え、えっと……それは、その……」
事案。
逮捕。
補導。
よくない単語が頭の中をぐるぐると駆け回る。
ダメだ、どうやっても言い訳できない。
俺はもう終わりだ。
変態ロリコン野郎のレッテルを貼られ、一生、裏社会で生きることになるんだ……
「素敵ね」
「え?」
てっきり罵倒されると思っていたのだけど、先輩はキラキラした表情で言う。
「歳の差恋愛……二人は親だけじゃなくて世間にも反対されるけど、でも、愛を貫く。様々な困難を乗り越えて、ついにはハッピーエンド。そして二人は幸せな家庭を……」
「えっと……先輩?」
「あ、ごめんなさい。ついつい妄想が」
ものすごく嬉しそうな顔をして、そんなことを言う。
「怒ったりしないんですか?」
「怒る? どうして?」
「いえ、だって……相手は小学生ですよ?」
「小学生が高校生に恋をしたらいけない、なんていう法律はないわ」
きっぱりと言う。
「実際に付き合うかどうか、それはまた別の話になるけどね。でも、小学生であれなんであれ、個人の気持ちを縛るようなことをしたらダメ。あの子が抱いている想いは応援こそしても、否定したらいけないの」
「そう……ですね」
「だから、通報とかそんなことはしないから安心して」
「うっ……俺、そんなにわかりやすいですか?」
「普段はそんなことはないけどね。でも今は、事が事だけに、ものすごく動揺しているみたい」
それはつまり、わかりやすいと言わないだろうか?
もっと感情をコントロールできるようにがんばらないと。
「事情、聞いてもいい? それとも、聞かない方がいい?」
「あー……相談に乗ってもらってもいいですか?」
いい加減、俺一人で抱えるにはきついと思っていた。
理解のある先輩に相談できるのなら、ぜひお願いしたい。
――――――――――
「……と、いうことなんです」
「なるほどね」
仕事の合間に、簡単にこれまでの経緯を説明した。
「俺、どうしたらいいんでしょう……?」
「今のままでいいんじゃない?」
「え」
予想外の答えに、ついつい目を大きくして驚いてしまう。
「それって……今のまま、宮ノ下と友達を続ける、ってことですか? 告白されて、返事はいいから、っていう言葉に甘えて?」
「そう」
「でも、俺、ずるくないですか?」
「ずるいわね」
「うっ……」
「でも、それで小学生ちゃんが納得しているんだもの。なら、他が口を出す必要がないというか、出したらいけないと思うの」
「そう……でしょうか?」
「私はそう思うわ。結城君も小学生ちゃんも、きちんと真面目に考えている。子供だから、なんて言葉で片付けないのは正解よ」
「それは……はい」
「小学生ちゃんは、断りの返事は求めていない。OKを求めていて、それを得るためにがんばろうとしている。結城君が小学生ちゃんのことを考えるのなら、ずるいとわかっていても、しばらく付き合ってあげること。それが一番よ」
「そう……なんですかね」
「そうよ。それくらいのチャンスは与えてあげないと」
「もっとも」と間を挟んで、先輩は言葉を続ける。
「本当に付き合うことになったら、また別の話。色々と問題が出てくると思うけどね」
「それは、まあ」
「その時は、また相談してちょうだい。力になれると思うわ」
「秘密にするべき秘密をぽんと話すのは、ちょっと大変ですけど……もしもそんな展開になったら、その時はよろしくお願いします」
と、その時。
「店員さん、お水をお願いします!」
なぜか宮ノ下がこちらを睨み、強い口調でそう言った。
「ふふ、小学生ちゃんが呼んでいるわよ?」
「あいつ、なんで怒っているんだろう?」
「それがわからないなら、まだまだね。駆け引きの前に、結城君も恋の勉強が必要かも」
「えぇ?」
「ほら、行ってあげて」
とにかくもピッチャーを持ち、宮ノ下のところへ。
「早く水をください!」
「はい、ただいま。っていうか、なんで怒っているんだ?」
「むー……そんなこともわからないんですか?」
「ごめん」
「ふんだ」
この時は子供らしく、宮ノ下はとてもわかりやすく拗ねていた。
……もしかして、先輩に嫉妬しているのだろうか?
そう思うと、なんだか可愛く見えてくるから不思議だ。
「よしよし」
「ちょ……いきなりなんですか、もう」
「なんとなく?」
「こんなことではごまかされませんよ。でも……もうちょっと撫でてください」
「いいの?」
「もちろん。好きな人に頭を撫でられるのは大好きなんですよ」
「犬みたいだな」
「忠犬ですよ? わん♪」
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