69話 もう一人の……
翌日。
なにかトラブルが起きるわけでもなく、授業は問題なく終了した。
担当場所の掃除を終えて……
その後、屋上に移動する。
「小柳先輩は……まだか」
屋上を見回すけど、俺以外に誰もいない。
通常、学校の屋上は立ち入り禁止になっていることが多い。
まあ……色々と事件に発展してしまう可能性が高いからだ。
ただ、うちの高校は、せっかくのスペースを活用しないのはもったいないと、学生達に開放されている。
フェンスは高く。
さらに、その手前にフラワーウォールを設置して。
他に、花壇や休憩所も設置されていて、ちょっとした公園だ。
生徒受けは非常に良く、昼休みなどは、ここでご飯を食べる人が多い。
ただ、放課後は部活に励んだり遊びに行ったりする生徒が多いため、あまり活用されていない。
「あっ、結城君! ごめんね、待たせちゃったかな」
ややあって、小柳先輩が姿を見せた。
走ってきたらしく、ちょっと息が乱れている。
「大丈夫ですよ。というか、そんなに急がなくてもよかったのに」
「ごめんね……ちょっと、掃除が長引いちゃって。結城君を待たせたらいけないと思って、走ってきたんだ……はふぅ」
体が小さいから体力も少ないんだろうか?
ついつい、そんな失礼なことを考えてしまう。
「ちょっと待っててくださいね」
屋上に設置されている自販機でジュースを買う。
「はい、どうぞ」
「え? でも……」
「いいから。気にしないでください」
「……うん、ありがとう」
小柳先輩は笑顔を見せて、パックのジュースにストローを刺して、はむっと口をつけた。
「ふぁ……美味しい♪」
なんとなく、ひまわりの種をかじるハムスターを連想させる仕草だ。
これで高校生とか、本当、色々と反則だろう。
「ごちそうさまでした」
小柳先輩は丁寧に頭を下げて、パックをゴミ箱に捨てた。
「ありがとう、結城君」
「いえいえ」
「それじゃあ、また明日ね」
「はい、また……って、違うでしょう!」
「え?」
小柳先輩は、きょとんと小首を傾げる。
本気か……?
「俺に、なにか用があったんじゃないんですか?」
「……あっ」
すっかり忘れていたらしい。
らしいといえばらしいけど……
つ、疲れる。
「そうだった……えへへ、ごめんね?」
「いえ。それより、どうかしたんですか?」
「えっとね……結城君に話しておきたいことがあるんだ」
「話……ですか?」
「うん。とっても大事な話」
なんだろう?
ファンネクに関する話だろうか?
あるいは鈴絡み?
考えてみるけど、心当たりはない。
「聞いてくれる?」
「はい、もちろんです」
「よかった、ありがとう。えっと……」
小柳先輩は、とても緊張している様子だ。
視線が落ち着きなく、あちらこちらをさまよっている。
ややあって、俺に固定された。
じっとこちらを見る。
時折、爪先で地面を叩いて。
指先を絡め合い。
それから……頬を染めて。
どこか、しっとりとした瞳を向けてきて。
まっすぐに俺を見る。
……うん?
なんか、つい最近、これと同じ光景を見たような……?
「……うん!」
「小柳先輩?」
「待って、今、言うから。大丈夫。ちゃんと勇気を出したから」
「勇気?」
「……聞いてくれる?」
「え、はい」
小柳先輩は、一歩、前に出た。
それはつまり、俺との距離が縮まるわけで……
その状態で、そっと唇を開く。
「結城直人君」
「は、はいっ」
「私、小柳瑠璃は……あなたのことが好きです」




