68話 野生の勘
「……え?」
ニ度、小柳先輩からのメッセージを見た。
さらに追加でもう一回。
……見間違いじゃない。
確かに、『結城』と書かれていた。
「え、なんで……?」
唖然としてしまう。
ヒロ=結城直人ということが、どうしてバレているんだ?
鈴が話した?
いや、そんなことをする必要がない。
「ってことは……自力で俺に辿り着いた? え? でも、どうやって?」
勘……なのか?
だとしたら、とんでもない。
超能力者と言われたら、そのまま信じてしまいそうだ。
「とりあえず……バレている以上、ごまかさない方がいいか」
覚悟を決めて返信する。
「はい、そうです」
『やっぱり! 結城君だったんだね、そんな気がしたんだー』
「どうしてわかったんですか?」
『なんとなく?』
本当に勘だったのか!
女性の方が勘が鋭いという話をどこかで聞いたことがあるけど……
それは本当なのかもしれない。
恐るべし。
『あれ? と思うようなところはあったよ』
「それは……?」
『結城君とヒロさん、すごくよく似ているなー、って思っていて。話し方とか、距離のとり方とか、気の使い方とか……』
すごい。
色々なところを見ているんだな。
『そんなところを見ているうちに、もしかしたら? って思えてきて』
「……確信を抱いたのは、いつなんですか?」
『確信ってほどじゃないんだけどね。たぶん、っていうくらい。えっと……師匠を交えてお話をした時かな』
あの時、俺、なにかしたか……?
黙って二人の話を聞いていただけなんだけど。
『優しく見守ってくれている感じが、なんだか、すごく結城君らしいなあ……って、気がついたらそんなことを考えていたんだ。それで、もしかして、って』
やっぱり勘だった!
ここまで来ると、素直に尊敬するしかない。
小柳先輩の勘は、もはや超能力の域だ。
『あとは……結城君だから、っていう理由かな?』
「なんですか、それ?」
『秘密♪』
本当になんだ?
「すごいですね。そんな風にリアルのことがバレたなんて、初めてですよ」
『近くにいたから、たまたま気づいたのかもね』
俺は、近くにいても気づかない自信がある。
『そういえば、結城君は私のことに気づいているみたいだけど……どうして?』
「いや、天然ですか」
『?』
「あんな名前にしておいて、気付かない方がおかしいですよ」
『……なるほど。私としたことが、ニアミスを』
まんま、本名にしていたことを忘れていたらしい。
こんなところも小柳先輩らしい。
というか、ニアミスではなくて、とんでもない大ミスである。
「本当なら、お金を払ってでも名前を変えた方がいいんですけど」
『うーん。でも、今の「私」は気に入っているから、このままでいきたいな』
「わかりました。まあ、事情を知らない人からすれば、本名とは思わないでしょう」
ネットゲームで、キャラクターに本名をつける人なんて、ほとんどいないはず。
そういうプレイなんだな、で大抵の人がスルーするだろう。
『ところで……結城君、明日の放課後、ちょっと時間もらえるかな?』
「明日ですか?」
明日の予定を思い浮かべる。
……特に用事は入っていないな。
「大丈夫ですよ」
『ありがとう。じゃあ、屋上に来てもらえるかな?』
「わかりました」
『じゃあ、また明日』
「ばいばい」と猫が手を振るスタンプが送られてきて、そこで会話が終了する。
「小柳先輩の話……鈴か、あるいはファンネクに関することかな?」
そんな予想をしつつ、俺は明かりを消して、ベッドに横になるのだけど……
その予想がまったくぜんぜん思い切り間違っていることに、この時は気づいていなかった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新連載です。
『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』
https://book1.adouzi.eu.org/n8636jb/
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。




