表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/74

65話 怖いから踏み込めない

「……でも、怖いんです」


 怖い?

 いったい、なにが怖いのだろう?


 不思議に思いつつ、次の言葉を待つ。


「その……」


 迷い。

 鈴の表情から、その感情が強く現れているのがわかった。


 ……今は背中を支えるべきだろう。

 そう判断して、俺は口を開く。


「話してくれないか? 俺は、鈴の力になりたいんだ」

「……直人さん……」

「どんな問題なのか、わからない。俺に解決できるかどうか、それもわからない。でも……大事な友達が苦しんでいるのに、それを放置することはできない。見なかったことになんかできない。俺も一緒に悩ませてほしい」

「……ありがとうございます」


 消え入りそうな声。

 でも、確かに耳に届いた。


 鈴は決意した様子で、まっすぐに俺を見る。


「私……友達を作るのが下手なんです」

「そう……なのか?」


 意外な告白だった。


 明るくて、猫のように可愛らしい。

 それに賢い。

 そんな鈴なら、友達は作り放題だと思っていた。


「ほら。私、パパとママが共働きじゃないですか?」

「そうだな。夜は、いつも遅いんだよな」

「はい。休みも少なくて、私の方が寝るのが早くて、なかなか顔を合わせることができません。朝は、できるだけ一緒にご飯を食べるようにしていますけど……でも、それも、パパとママの仕事が忙しくなるとなくなります」

「そうなのか……」


 いつか聞いた話では、朝は絶対、という風だったと思うが……

 それは嘘だったのだろう。


 悪い感情からではなくて。

 俺に心配をさせたくないと、そんな想いからの嘘なのだろう。


「だから……私、人との距離感を測るのが苦手なんです。どんな話をしたらいい? どれだけ踏み込んでいい? どういうことをしたら怒らせてしまう? ……わからないんです」

「そんなことはないんじゃないか?」


 鈴は、いつもぐいぐいと押してきた。

 遠慮なく、俺の懐に飛び込んできて……

 時に、物理的に距離も近づけてきた。


「あはは……実は、今までのアレ、かなり無茶をしていたんですよ? 嫌われるんじゃないか、失敗するんじゃないかって、いつもドキドキでした。でも……どうしても、直人さんに振り向いてほしかったから。だから、がんばったんです」

「そう……なのか」


 ちょっと照れた。


 無理をしてまで、俺との距離を縮めようとする。

 そんな話を聞かされて、心を動かされないはずがない。


「ただ……それは、直人さんだからできたこと。他の人相手には難しいんです……」

「……そうか。小柳先輩との距離も測りかねている、っていうことか?」

「はい……どうしたらいいかわからなくて、嫌われてしまうんじゃないかって怖くて……だから、昨日は、ついつい逃げてしまいました」

「そうだったのか……」


 鈴は自嘲めいた笑みを浮かべる。


「私……パパとママとどう接していいか、今もわからないんですよ?」

「……鈴……」

「いい子にするようにしています。にこにこと笑っています。そうすれば、パパとママは安心してくれるから……でも、私、本当は甘えたくて、もっと一緒に遊んでほしくて、お話をしてほしくて……でもでも、お仕事の邪魔になったらいけないじゃないですか。だから、我慢するしかなくて、それが正解のはずなのに寂しくて、胸が苦しくて、やっぱり寂しくて切なくて……」


 この時、ようやく鈴の抱えている問題を理解できた。


 家に一人でいることが多くて。

 両親とまともなコミュニケーションを取る時間がない。


 だから、鈴は人と人の距離感がわからない。

 そこに失敗して、今まで築き上げたものが壊れてしまうことを避けている。


 ……今まで、一人だったから。

 だから、手に入れたものを失うことを極端に恐れている。


「失うくらいなら……最初から、大事なものは作らなければいい。いつしか、そんなことを考えるようになっていました……」


 真白のことも。

 小柳先輩のことも。

 そして、小学校の友達のことも。


 鈴は、表面上、問題のないように笑顔を浮かべて仲良くやっているけれど……

 でも、本当の笑顔は見せていないという。

 心に踏み込ませたことはないという。


「でも……そんなに心配しなくてもいいよ。だって、俺に、こうして……いや」


 俺は特別だから、こんな話ができる?

 それは、なんていう思い上がりなのだろう。


 鈴の手は……震えていた。

 体も小さく震えていた。

 それは、恐怖によるものだ。


 こんな話をして、嫌われたらどうしよう?

 めんどくさいと思われたらどうしよう?

 たぶん、今、そんなことを考えているのだろう。

 そんな恐怖に襲われているのだろう。


 俺は特別なんかじゃない。

 ただ単に、鈴は、今、がんばっているだけなのだ。

 どうにかこうにか勇気を振り絞り、前に進もうとしている。


 どうする?

 どうすればいい?


 鈴は、今、勇気を見せてくれている。

 でも、ここで対応を誤れば、彼女の心は折れてしまうだろう。

 そして、二度と前に進まくなってしまうかもしれない。


 今、俺にできることは……


「……よくがんばったな」

「直人さん……?」


 そっと、鈴を抱き寄せた。

 そのまま、ぽんぽんと頭を撫でる。


◆◇◆ お知らせ ◆◇◆

さらに新連載です。

『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』


https://book1.adouzi.eu.org/n8636jb/


こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 一人っ子問題でしたか・・・ [一言] 抱き寄せたら、頭じゃなくて背中ぽんぽん・・・。 十中八九べそかくけどね・・・。
[気になる点] 他者との距離感は以前から何度も言ってて(書かれていて)少しくどく感じるけど気持ちはすごく伝わる。 [一言] もう事案でもなんでも良いじゃない……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ