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63話 逃走

「全体範囲、来る! 俺の近くに!」

「は、はい!」

「全体継続回復、かけておきますね」


 二つ目のダンジョンを攻略中。


 小柳先輩もゲームに慣れてきたみたいで、動きが格段に良くなっていた。

 スキル回しは適当なのだけど……

 そこはまだ、あれこれと言うべきじゃない。


 全滅することはなくて、壊滅の危機に瀕することもなくて。

 無事、ボスを撃破してダンジョン攻略に成功した。


「やりましたー!!!」


 小柳先輩がぴょんぴょんと跳ねた。

 それから、その場をぐるぐると回る。


 今度は子犬みたいだ。


「こういうの、微笑ましいですね」

「だな」


 鈴の言いたいことはよくわかる。


 俺達にとってはなんてことのないダンジョンだけど、初心者にとっては大きな壁だ。

 それを乗り越えることができた時、達成感に包まれる。


 その時の喜びはたまらない。

 こういうところがうまく作られているから、俺は、ファンネクが好きなんだよな。


「やりましたよ、師匠!」

「えっ」

「ちゃんと攻略できました! 私、がんばりましたよー!」

「そ、そうですね……まったく問題のない、満点の動きだったと思いますよ。ヒロにも抱きついていないし」

「はい、我慢しました! 代わりに、師匠に抱きついちゃいますね」

「えっ」

「ぎゅー♪」


 小柳先輩は、今度はアイリスに抱きついた。

 時折、頭を撫でている。


「えっと……子供扱いしないでほしいんですけど」

「あ、そうですよね!? ごめんなさい。なんか、つい……」


 小柳先輩は、アイリスが小学生ということに気づいているのだろうか?

 だとしたら……俺のことも?


「これなら大丈夫ですか? ぎゅー♪」


 ハグに切り替えた。

 何度も何度もハグをして、喜びと親愛を表現して……


「やめてくださいっ!!!」


 我慢の限界……

 というよりは、ふとしたことで感情が爆発してしまった。

 そんな感じで、アイリスが叫んだ。


 小柳先輩の動きが止まる。

 俺も、どうしていいかわからず、動きが止まる。


「……ぁ……」


 アイリス自身も、自分のしたことを理解していないみたいだ。

 戸惑い、怯え、恐怖……色々な感情が入り混じり、瞳を揺らしている。


「そ、の……えっと……ごめんなさい。なんか、チャットを打ち間違えたというか……」

「あ、そうだったんですね。よかった……師匠を怒らせてしまったかと」

「怒るなんて! そんなことは……そんなこと、しませんよ」


 そう語るアイリスは、半分嘘を吐いていて、半分本当のことを話しているように見えた。


 嘘は、チャットを打ち間違えた、というところ。

 本当は、怒っていない、というところ。


 ……どういうことなんだ?

 アイリスの……鈴の考えていること、感じていることがわからない。


「師匠、いつもありがとうございます!」

「あ……うん。別に、なんてこと……」

「これは感謝の気持ちです。ぎゅー♪」

「えっと……」

「あのあの……よかったら、友達になってくれませんか!? あ、ヒロ君も!」


 フレンド登録は済ませている。

 ただ、この場合の友達はもっと踏み込んだ関係で……

 メッセージアプリなどで、プライベートでも連絡を取りませんか? という意味だろう。


「ええ、もちろん」

「それは……はい、大丈夫……ですよ」


 アイリスの様子がおかしい?


「メッセージアプリのIDでいいですよね?」

「はい! 嬉しいです! 私のIDは……」

「まったまった! 範囲チャットじゃなくて、個別チャットで。誰かに聞かれたらまずいです」

「そうですね、うっかりしてました」


 個別チャットで小柳先輩のメッセージアプリのIDを教えてもらう。


 ……ここまできたら、俺が結城直人であることを明かした方がいいのだけど。

 でも、鈴がそれを拒んでいるし……どうしたものか?


「師匠、いいですか?」

「……」

「師匠?」


 アイリスの反応がない。

 寝落ち?


 いや、これは……


「すみません!」

「えっ」


 アイリスは、ぺこりと頭を下げて。

 そのままログアウトしてしまう。


「えっと……」


 残された俺達は呆然とするしかない。


 だって……

 どこからどう見ても、IDの交換を拒んだようにしか見えないのだから。

 なぜ、アイリスがそんなことをしたのか、理解できないから。


「私、なにか師匠を怒らせるようなことをしてしまったんでしょうか……?」

「わからないけど……俺の方で調べてみるよ」

「いいんですか?」

「どちらも放っておけないから」


 できる限りのことはしてみるつもりだ。


 それに……

 色々と調べることで、ここ最近感じていた、鈴に対する違和感の正体がわかるかもしれない。


「とりあえず、今日は俺も落ちますね。すいません」

「ううん、謝らないで。一緒にダンジョン攻略をしてくれただけでも嬉しいから」


 「ただ」と間を挟んで、言葉を続ける。


「もう少し……仲良くなれたら嬉しいな」

「はい。そうなれるようにがんばります」

「ありがとう、ヒロ君」

「俺達は、もう友達ですからね。友達のためになにかするのは、普通ですよ」

「……」

「どうしたんですか?」

「なんだか、ヒロ君がリアルの友達に……ううん、なんでもない」


 なんだろう?


「じゃあ、先に落ちますね。また」

「うん、ばいばい」


 ログアウトして、そのままPCの電源を落とした。

 それからスマホを手に取り、メッセージアプリを起動する。


『明日、会えないかな? 時間や場所は任せるよ』


 少し迷った末に、そんなメッセージを鈴に送った。

◆◇◆ お知らせ ◆◇◆

再び新連載です。

『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』


https://book1.adouzi.eu.org/n3865ja/


こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] お家デートが最適解かなぁ・・・
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