62話 ありがとうございました
夜。
夕食を済ませた後、風呂に入り、スマホをいじる。
「はぁ……なんか、今日は疲れたな」
あの後、鈴を家に上げて……
あれこれとわがままを言われて、それに応えていた。
結局、夜になるまでウチにいて……
鈴を家まで送ることになり、二度手間になってしまった。
「まあ……いっか」
今日の鈴は笑顔を取り戻していた。
一時的なものかもしれないけど……今は、それでよしとしておこう。
「にしても……」
ストーカーの件がトラウマになっているとして。
それで、過去を連想してしまい、ほとんど面識のない小柳先輩と距離を取ってしまうとして。
「……だとしても、やや過剰な反応な気がするな」
鈴のトラウマや、過去に起きた強引なナンパで負った心の傷を否定するつもりはない。
確かにあるもので、今も恐れているのだろう。
ただ、小柳先輩は女性だ。
それに、見た目はほぼほぼ小学生。
「恐れる要素なんてあるか?」
見た目も中身も人畜無害な人だ。
過去の問題があったとしても、警戒することはないと思うんだけど……
「……まだ、俺のわからない『なにか』を鈴は抱えているのかな?」
だとしたら、それをどうにかしたいと思う。
「うん?」
スマホから音が鳴り、メッセージを受信したことを知らせてくれる。
見ると、鈴からのメッセージだった。
『起きていますか?』
「もう寝たよ」
『起きているじゃないですか!』
「気のせいだろう」
『どんな気のせいですか! そういう意地悪をすると、直人さんにスカートめくりをされた、って学校で言いふらしますよ! 真白ちゃんに告げ口しますよ」
「ごめんなさい、勘弁してください」
あの妹にそんなことを吹き込まないでほしい。
絶対にとんでもないことになる。
「それで、どうかした?」
『お礼を言いたくて』
なんのことだろう?
『今日はありがとうございました。直人さんのおかげで、なんだか元気が湧いてきた気がします』
俺の気遣いはバレていたらしい。
本当、小学生とは思えないくらい賢い。
「悩みがあるなら、いつでも気軽に」
『本当に?』
「恋の相談以外な」
『先に封じられてしまいました、切ないです……』
猫がしゅん、となっているスタンプが送られてきた。
「なにか問題が?」
『いえ、なにも。大丈夫ですよ』
嘘だな、と思った。
ほぼほぼ直感のようなもの。
でも、間違っていないだろう。
鈴が人見知りをする理由。
それは、ストーカーの件がトラウマになっているだけじゃなくて……
他にも理由があって……
そして今、それが鈴を苦しめている。
……少し踏み込んでみるか。
「今日は、ファンネクどうする? たぶん、小柳先輩はいると思うけど」
『すみません、宿題をしないといけないので』
これは……嘘かどうかよくわからない。
「そっか。がんばれよ」
『はい。今は、ネット検索すれば簡単に答えがわかりますからね』
「ちゃんと自分で考えなさい」
『はーい』
猫が『了解』という看板を持つスタンプが送られてきた。
そこで沈黙。
3分ほどして、新しいメッセージが。
『やっぱり、今日は、私も一緒していいですか?』
「宿題は?」
『明日提出ではないので、明後日やります』
「了解。じゃあ、20時頃に合流しよう」
『りょです』
……りょ?
――――――――――
ログインして数分したところで、アイリスのログイン通知が届いた。
「おまたせしましたー!」
「2分、遅刻だ」
「細かい!? そういう時は、待っていたよとか、俺も今来たところだよ、とかそう言うパターンじゃないですか」
「アイリスを甘やかすのは止めた。これからは厳しく躾けていくことにする」
「ワンちゃん扱い!?」
「ほーら、取ってこーい」
「武器を投げないでくださいよ! 投げ返しますよ!?」
ひとまず元気みたいだ。
これが空元気なのか、本当のものなのか。
「お」
フレンド一覧を見てみると、小柳先輩がログイン状態になっていた。
同じクランに所属していないとログイン通知はないので、こうして、いちいちフレンド一覧を確認するしかない。
「小柳先輩、ログインしたみたい。誘うけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
問題なさそうなので、小柳先輩に個別チャットを送り、それからパーティーに誘う。
場所を指定して合流して……
「こんばんは、師匠、ヒロ君! 今日もよろしくお願いします!」
三人の冒険が始まるのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』
https://book1.adouzi.eu.org/n3865ja/
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