61話 相合い傘
あれからカラオケは大いに盛り上がり……
3時間の延長をして。
ついでに、昼食も済ませておいた。
けっこうな額になってしまったものの、気にしない。
金は、こういう時に使うものだ。
必要な時に惜しむことはない。
「次はどうするんですか?」
「プラネタリウムでも行こうかな、って考えているんだけど、どう?」
「おー、いいですね! 雰囲気たっぷりです。暗いから、ちょっとえっちなことをしても大丈夫だと思いますよ?」
「前々から思っていたんだけど、鈴は、エロくないか?」
「そ、そんなことないです! 直人さんだけですよ!?」
最近の小学生がマセているのか。
それとも、鈴の性格によるものなのか。
なかなか判断が難しい。
「ひゃっ!?」
外に出ようとしたところで、急な突風が吹いた。
傘を開きかけていた鈴が小さな悲鳴を上げた。
「大丈夫か?」
「あ、はい。私は大丈夫ですけど……」
鈴が持つ傘は骨が折れて、使い物にならなくなっていた。
「100円ショップの傘は使うべきじゃないですね……むぅ」
「コンビニに行ってくるから、少し待ってて」
「あ、待ってください。せっかくなら……にひ♪」
――――――――――
「ふんふーん♪」
傘が壊れたというのに鈴はごきげんだった。
それもそうだろう。
「直人さんと相合い傘♪ 愛の相合い傘ぁ~♪」
「愛の、とか初めて聞くんだけど」
新しい傘を買うのはもったいない。
エコです、エコ。
なので、入れてください。
……と、強引に相合い傘をすることに。
拒否しても、鈴のことだから諦めないだろう。
泣きますよ? とかなんとか、脅してでも絶対に目的を叶えようとする。
そのことを理解している俺は、早々に諦めて、お姫様の意向に従うことにした。
「濡れてないか?」
「大丈夫です。直人さんの愛の力がありますから!」
「意味不明なのと、愛はない」
「もう。つれないですねー。でも、そういう直人さんを落とした時は、とてもとても楽しそうです♪」
にひひ、と小悪魔のように笑う。
「でも、直人さんの傘、大きくて助かりました。私が一緒でも、まったく濡れませんね」
「大人用で、それでいてサイズも大きめだからな、これ」
「これ、直人さんのですか?」
「そうだよ。実家から持ってきたんだ。元は、父さんのかな?」
「なるほど。直人さんのお父さんは大きい人なんですね。それで、いつ紹介してくれるんですか?」
「しないぞ」
「えっ」
「なんで、ありえない、っていう顔をするんだよ」
「未来の妻を紹介するのは当然でしょう?」
「だから、勝手に未来を決めないでくれ」
そのうち、本当に実現しそうで怖い。
……いや。
別に怖くはないか。
事案になりたくないだけで……
鈴のことは、友達としては好きだ。
恋愛対象としては見ていないけど……
10年後。
あるいは、そういう関係になっているかもしれない。
そこまで先のことを否定するのはやめておくか。
「ところで……ひゃっ!?」
再び突風が吹いた。
完全な不意打ちで……
鈴のスカートがふわりと舞い上がり……
「……」
「……」
二人の足がピタリと止まる。
さすがに恥ずかしいらしく、鈴は耳が赤い。
両手でスカートを押さえている。
ちらっと、こちらに視線をやる。
「……見ましたか?」
「見ていない」
本当だ。
細い足は見えたけど、それだけだ。
「本当ですか?」
「誓って」
「……むぅ」
なんで残念そうな顔をするんだよ。
「見られなくて安心したような、でも、残念みたいな……複雑な気持ちです」
「安心してくれよ」
「でもでも、直人さんを誘惑するには、それくらいやる必要はあると思いませんか? こんな感じで」
鈴はスカートを指先で摘んで、くいっと引き上げた。
「お、おいっ!?」
「にひひ、慌てていますね」
「当たり前だろ!? 住宅街のど真ん中で、なにやっているんだ!?」
「誘惑です♪」
「変態の間違いだろ」
「ひどいです! こんなにも一生懸命なのに。かくなる上は、がばりとめくりあげるしか……あいたぁ!?」
さすがにいたずらがすぎるので、デコピンをしておいた。
体罰じゃない。
躾けだ。
「バカなことはしないように」
「とか言って、本当は残念に思っていませんか?」
「……ちょっと、傘を持ってくれないか?」
「はい、いいですよ。こうですか?」
「よしきた」
鈴に傘を渡して……
両手が自由になったところで、彼女のこめかみをグリグリとする。
「あいたたたたたっ!?」
「聞き分けのない子は、こうだ」
「ギブです、ギブ!? わかりました、もうしませんから許してくださーーーーーい!!!?」
雨空に鈴の悲鳴が響くのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』
https://book1.adouzi.eu.org/n3865ja/
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