58話 なんか見たことあるような?
「じゃあ、私はこれで。結城さん、またお話してくださいね♪」
鈴は、にっこりと笑い、ぺこりと一礼。
そのまま、たたたと駆けていった。
なんていう猫かぶり。
将来、女優になれるのではないか?
「可愛い子だね」
「そう……ですね」
「どんな話をしていたの?」
「えっと……例え話なんですけど。本当に、ただの例えなんですけど」
「うん」
「女子小学生と付き合う高校生ってどう思う……みたいな」
「えぇ……」
小柳先輩は……ものすごく引いていた。
「恋愛は自由だと思うけど、それはちょっとないかな……さすがに、年の差がありすぎるよ」
「で、ですよね……」
「そういう人、ロリコン、っていうんだよね。私、知っているよ」
「ぐはっ」
先輩のような人から『ロリコン』なんて言われたら、ダメージがものすごい。
思わず意識を失ってしまいそうになる。
「ど、どうしたの……?」
「いえ、なんでも……そ、それよりも、こんなところで小柳先輩と会うなんて珍しいですね」
記憶の限り、小柳先輩と登校途中に出会ったことはない。
「あはは……恥ずかしい話なんだけど、ちょっと寝坊しちゃって」
「へぇ。先輩って、しっかりしてそうだから意外な話ですね」
「うんうん、そう! 私、本当はしっかりしているんだよ? なんといっても、お姉さんだからね♪」
ドヤ顔を披露する小柳先輩。
しかし、悲しいかな。
どう見ても小学生が背伸びをしているようにしか見えない。
「昨日、ちょっと遅くまでゲームをしていたんだ。それで……えへへ」
小柳先輩はごまかすように笑う。
そんな仕草も以下同文。
「へぇ、ゲームですか……ちなみに、そのゲームの名前は?」
「ふぁんねる……じゃないや。これは略称で、えっと……そうそう、『ファンタジーライフ・ネクスト』だよ」
残念。
略称は間違いだ。
それだと、念じるだけでどこかに飛んでいってしまいそう。
でも、これで確定した。
やっぱり、昨日の『Ruri Koyanagi』は小柳先輩だ。
ここまでの偶然、あるわけがないから、確定で間違いないだろう。
「んー……」
「どうしたの?」
「……いえ、なんでもありません」
実は、俺も『ファンネク』をプレイしているんです。
それで、昨日会った『ヒロ』は俺なんです。
そう言おうとした。
俺だけ知っているのは不公平な気がして……
あと、これだけの偶然を重ねてきた仲だから、仲良くなれると思った。
でも、鈴はそれを拒んでいたように思えたから、今はやめておいた。
まあ、焦る必要はないか。
学校は同じ。
こうして話をする仲。
いつでも打ち明けることはできる。
「んー……?」
小柳先輩の疑問顔は続いていた。
ただ、疑問の内容はさきほどと変わっているみたいだ。
なぜか、じっと俺の顔を見つめてくる。
「どうしたんですか? なにかついています?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……むぅ?」
小柳先輩は怪訝そうにしつつ、さらに顔を近づけてきた。
いや、待って。
近い近い。
なんでこんなに近づいてくるんだ?
というか、この人は自分のことをちゃんと理解しているのか?
童顔ではあるものの、間違いない美少女。
こんな風にしたら、勘違いするヤツが絶対に出てくるぞ。
「こ、小柳先輩……?」
「んー……ふぅ」
よくわからないけれど、なにかしら納得した様子で、小柳先輩は離れてくれた。
よかった……
色々な意味で心臓に悪い。
「ど、どうしたんですか……?」
「昨日、結城君とよく似た人と出会ったんだ」
「えっ」
ドキッとした。
「ゲームで一緒に遊んで、とても親切にしてもらったんだけど……なんか、結城君に似ているんだよね」
「……へぇ、そうなんですか」
すっとぼけることにした。
ここまできたら、本当、もう正体を明かした方がいいと思うのだけど……
鈴は、なぜか隠したがっていたから、まずは相談した方がいいだろう。
「んー」
小柳先輩は、どこか納得していない様子で、小首を傾げた。
「もしかして、昨日の人、結城君だったりして」
「アハハ、ソンナマサカ」
「なんで片言?」
「なんでもありません」
小柳先輩も、ぽーっとしているようで、実は勘が鋭いよな。
女性は、みんなこうなのだろうか?
――――――――――
「……と、いうわけなんだけど」
放課後。
帰宅した後、鈴に電話をかけた。
「偶然がすごいというか、このまま黙っておくのはなんかずるいというか……遠からずバレると思うから、その前に話した方がいいと思うんだけど」
『……』
返事はない。
迷いなのか。
それとも……
「鈴?」
『……私は、嫌です』
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』
https://book1.adouzi.eu.org/n3865ja/
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