55話 愛と嫉妬のダンジョン攻略
パーティー編成は、俺とアイリスとルリの三人。
俺は、敵の攻撃を引き受けるタンクだ。
敵視をうまくコントロールしないといけないため、初心者のルリには難しいだろうとのことで、俺が引き受けることに。
アイリスはヒーラーだ。
本来は、特攻上等の高火力アタッカーなのだけど……
ヒーラーはパーティーの生死を司ると言っても過言ではないため、やはり、初心者のルリには荷が重い。
アイリスに担当してもらうことになった。
そして、ルリはアタッカーだ。
とにかく攻撃することだけを考えればいい。
高火力を叩き出すためには、色々とスキル調整が必要で頭を使うのだけど……
初心者にそこまで求めるつもりはない。
好きにやってもらって大丈夫だ。
「それじゃあ、いこうか」
最初のダンジョンに到着した俺達は、さっそく攻略を開始した。
俺が先頭に立ち、アイリスとルリが後ろに続く。
敵と遭遇したら、まず、俺がヘイトを取る。
敵の攻撃が俺に集中している間に、ルリが攻撃をして、アイリスも回復を挟みつつ攻撃をする。
「いい感じですね。しっかりとダメージを与えられていますよ」
「本当? よかったぁ」
「範囲攻撃もしっかりと避けられていますね。ナイスです」
「ありがとう」
「それと……」
「たまーにタンクのヒロより先行してしまっているので、そこはマイナス点です!」
アイリスが会話に割り込んできた。
画面の向こうで渋い顔をしているのが、なんとなく見えた。
「それと、やたら無闇に歩みを止めないこと! 範囲攻撃をしっかり見て避けるのも大事ですが、常に動き続けることで、スピーディーな展開に慣れておかないとダメです!」
「はい!」
「ついでに、なんかこう、ヒロのことをよく見ているような気がします!」
それは被害妄想だ。
あと、なんか言動が小姑っぽいぞ。
「あ、それダメです。最初は無理に攻撃しないで、どんなギミックを繰り出してくるのか、それを理解することに努めましょう。ちゃんと把握していないと、やられちゃいますからね」
なんだかんだ、鈴はきちんとゲームのイロハを教えていた。
ちょくちょく口うるさい……
というか、嫉妬心で攻撃的になるものの、まあ、ツンデレの範疇だ。
本当に人を傷つけるようなことは口にしておらず、小柳先輩のことを気遣ってくれている。
自分が好きなゲームを好きになってほしい。
そんな気持ちが伝わってくる。
小悪魔というか、ませているというか。
なかなか癖の強い子だけど、でも、根は良い子だ。
そのことを小柳先輩も理解してくれれば、良い友達になるかもしれない。
「……と、いうわけです。わかりましたか?」
「はい! たぶん!」
「たぶんですかい!」
「えっと……すみません。なかなか一気には……」
「……まあ、おいおい慣れていけばいいですよ。それまでは、私達がいますからね」
ね? という感じで、アイリスがこちらを見た。
頷くエモートをした。
面倒見がいいところも彼女の魅力だ。
……そんな感じで、最初のダンジョンの攻略はサクサク進んだ。
中ボスを撃破して、いよいよダンジョンボスへ挑む。
「範囲攻撃にだけ気をつけて、とにかく攻撃を!」
「はい、がんばります!」
「私は、誰も落としませんよー!」
今日、出会ったばかりで、即席で組んだパーティー。
でも、わりと連携がとれていた。
問題らしい問題は、ほとんど……
というか、まったくない。
順調にダンジョンボスのHPゲージを削りきることに成功した。
「よし、撃破!」
「……」
「私達にかかれば大したことはありませんね、ふふんっ!」
「……」
あれ?
小柳先輩が無言だ。
ピクリとも動かない。
回線落ちか?
「あの……」
「……や」
「や?」
「やったぁあああああーーーーーっ!!!」
「「うわっ」」
突然の大きな歓声。
俺とアイリスはほぼ同時に驚いて、妙な方向に動いてしまう。
一方の小柳先輩は、その場でぐるぐると回る。
喜びを表現しているんだと思う。
わかる。
エモートの存在を知らなかった頃、俺も、嬉しい時はああして動き回ったものだ。
なんだか昔の自分を見ているようで、微笑ましい気持ちになる。
「……うんうん」
それはアイリスも同じらしく、満足そうに頷いていた。
……と。
ここで終われば、誰も彼も嬉しいハッピーエンドだっったのだけど……
「やった、やりました! やりましたよ!?」
「えっ」
突然、小柳先輩が俺に抱きついてきた。
何度も。
何度も。
何度も。
ぎゅーーーーーっと。
『抱きつく』のエモートは知っているらしく、乱打している。
「ありがとうございます! 私、無事にクリアーできました!」
「えっと、それはいいんですけど……」
「すごく嬉しいです!!!」
「だから……」
再び抱きつかれた。
いや、まあ。
ネットゲーム上のこと。
リアルで本当に抱きつかれているわけじゃない。
そうじゃないんだけど……
妙に照れくさい。
恥ずかしい。
「……ぐぬぬぬぬぬっ!!!」
見事にアイリスが嫉妬していた。
ゴゴゴッ! と空間が震えているかのようだ。
ボイスチャットはしていないのだけど、怒りの声が聞こえてくる。
「もう許しませんっ、ヒロから離れてください!!!」
そして、アイリスがキレた。




