表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/74

54話 むにゃーん

『むにゃーん……』


 小柳先輩らしき人がいて。

 まったくの初心者で。

 サポートをしたいと伝えると、アイリスは、意味不明な鳴き声を返してきた。


 猫か。


『リアルだけじゃなくて、ネットでも私と直人さんの仲を引き裂こうだなんて……!』

「向こうは、まだ俺にまったく気づいていないと思うぞ」

『なら、このままスルーしましょう! 初心者? へっ、ここは血で血を洗う世紀末の戦場ですよ! そんな生ぬるい人は、脱落して当然! むしろ、この先にある真の地獄を見ないだけマシというものです!』


 誓って言うが、『ファンネク』はそんな物騒なゲームではない。


「やっぱり、いい気はしないよな」

『それは……まあ、はい』

「わかった。なら、関わらないことにするよ」

『え、いいんですか?』

「ほんとは、あまりよくないけど、気になるけど……」


 この前、やらかしたことを思い返す。


「俺のわがままで、また、鈴に嫌な思いをさせたくない」

『……直人さん……』

「鈴が嫌なら、やめておくよ」

『……直人さんは、それでいいんですか? 本当は、どうしたいんですか?』

「本当は……色々と教えてあげたいかな。それで、このゲームを好きになってほしい」

『『ファンネク』を……好きに?』

「俺がこのゲームを好きだから、っていうのもあるけど……『ファンネク』のおかげで、俺は、鈴と出会うことができた。大事な親友ができた。だから、もっとたくさんの人に好きになってもらいたいんだ。俺と鈴の思い出の場所は、こんなにも素敵なところなんだって、知ってほしいんだ」

『……』

「まあ、俺のわがままだけど……好きなものを共有できたらな、って」

『……はぁあああああ』


 チャットでため息。

 つまり、それくらい呆れているのだろう。


『直人さん、お人好しですね』

「そうかな?」

『あと、殺し文句キラー量産機ですね』


 それは意味がわからん。

 殺しとキラーで、意味が被っているぞ。


『そうですよ、もうっ。ここで反対したら、私、理解のない妻じゃないですか』

「妻じゃないけどな」

『……いいですよ。その先輩さんに、色々と教えましょう』

「いいの?」

『好きなものを好きになってほしい。そんな直人さんの気持ち、わかりますから……でも、私が一緒にいる時にしてくださいね? 二人きりはダメですよ!』

「了解。じゃあ……って、ちょっと待ってくれ。肝心の本人から、どうするか話を聞いていなかった」

『40秒で支度してください』

「色々と使い所を間違っているからな、それ」

『あれ?』


 アイリスとのチャットを一度、終了させた。

 それから、小柳先輩らしきキャラクターに話しかける。


「すみません、おまたせして」

「いえいえ」

「それで、ですね……よかったら、このゲームについて色々と教えましょうか?」

「いいんですか?」

「はい。困っている時はお互い様ですよ」

「でも」

「特に対価とかいらないので。俺、今はヒマなので。それに、ここで辞めちゃうよりは、このゲームを好きになってもらいたいかな、って」


 反応がない。

 驚いているのかな?

 でも、驚くようなことは言っていないのだけど……


「ヒロさんって、良い人なんですね」

「そうかな?」

「すみません、お願いしてもいいですか?」

「はい、任せてください!」




――――――――――




「こんにちは」

「この人は、俺のフレでアイリス、って言います」

「はじめまして。コヤナギ・ルリです」


 どうしよう。

 名前について、ものすごくツッコミを入れたい。


 ただ、まだ確信があるわけじゃない。

 下手にツッコミを入れると、そのまま消えてしまうこともありえる。

 けっこう恥ずかしがり屋なところがあるからな、小柳先輩。


 我慢して、話を先に進める。


「アイリスも一緒なんですけど、大丈夫ですか?」

「はい、よろしくお願いします!」

「こちらこそ。ちなみに……」


 アイリスは隣に並び、俺のキャラクターを抱きしめた。


「私、ヒロの妻なので」

「え!? 二人は結婚しているんですか!? 夫婦なんですか!?」

「はい♪」

「すごいですね! 夫婦で同じゲームをしているなんて!」


 否定したいけど、『ファンネク』の中では結婚していているため、否定しきれない。


 それに、相手も思い切り勘違いしているみたいだ。

 やっぱり、ネットとリアルの区別ができていない様子だ。


 とはいえ、ここの説明を始めるとややこしいことになる。

 慣れていない人にとっては、余計に混乱してしまうだろう。


 今は気にしないことにして、ゲームの説明を優先することにした。


「それじゃあ、まずは……」




――――――――――




 まずは、ゲームの進め方や、メインクエストとサブクエストの違い。

 職業システムや生産職。

 戦闘の方法。


 そして、初心者がやるべきこと。


 それらを一つ一つ、俺とアイリスで丁寧に教えていく。


「はい、ここで問題です。敵と遭遇した時にすることは?」

「えっと……タンクがヘイトを稼ぐまで待ってから、攻撃をする?」

「正解です! わー、ぱちぱち♪ ルリさんは物覚えが早いですね」

「いえいえ。先生達の教え方がいいんだと思います」

「先生……えへへ♪」


 当初は二人の仲を懸念していたが……

 なんだかんだ、うまくやっているみたいだ。


 アイリスは先生呼ばわりされて、にっこり、ほくほく。

 ちょろい子だ。


「じゃあ、そろそろダンジョン攻略をしてみましょうか」

「え!? それ……だ、大丈夫ですか? 私、始めたばかりなのに……」

「大丈夫ですよ。俺とアイリスがいますから、サポートは万全にします。あと、一番最初のダンジョンなので、難易度は大したことありません。ぶっちゃけ、今の講義を無視して、突撃してもなんとかなるレベルです」

「はへー」

「とはいえ、そんなことをしていたらうまくならないので、しっかりといきましょう」

「はい、教官!」


 ノリの良い人だ。


 でも、ちょっと気持ちはわかる。

 初めてのネットゲーム。

 広大な世界で、画面の向こうにいる人と一緒に遊ぶ。


 自然とテンションが上がり、楽しくなってきて、普段はしないようなことをしたりするんだよな。


「あと、私のことは気軽にルリって呼んでくださいね。さんとか、いいですから」

「じゃあ、俺のこともヒロで」

「私もアイリスで」

「じゃあ、ダンジョン攻略、がんばりましょうー!」


 小柳先輩……ルリは腕を突き上げるエモートをして、走り出して……


「ルリ、そっち、反対方向だから」

「……レッツゴー!」


 何事もなかったかのようにやり直した。

 この人、意外と神経が図太いのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 小柳先輩がこっちまで出てきて、鈴との三角関係。どうなっちゃうんだ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ