51話 一緒に
「それじゃあ、そろそろ寝ようか」
色々なことがあったものの、もう夜も遅い。
明日は祝日で休みだけど、あまり夜更かしをしていると生活のリズムを狂わせてしまうからな。
「えっと……直人さん、お願いが」
「イタズラしすぎたから、もう、『なんでも』は通用しないからな」
「うぅ……それは反省しています、本当に」
がくりとうなだれる鈴。
本気で反省しているらしく、声に力がない。
「ただ、その……できれば、直人さんと一緒に寝たくて」
「別に、同じ部屋で寝るくらい、いいよ」
「いえ、えっと……同じベッドがいいです」
「……あのな」
「からかっているわけじゃないんです。ただ……」
鈴はちょっと不安そうにしつつ、枕を抱きしめる。
そして、ちらりとこちらを見上げた。
「その……たまに、パパとママと一緒に寝てもらっていて……大好きな人が一緒だと、よく眠れるので」
「……それ、俺で問題ないのか?」
「はい! 直人さんと一緒なら、ものすごく、ぐっすりと眠れる気がします!」
ちょっとおどけている様子はあるものの。
でも、鈴は、すがりつくような目をこちらに向けていた。
もう小学生。
されど小学生。
一人で寝るというのは、寂しく、慣れないものなのだろう。
普段から一人でいることが多いから、なおさら。
「変なことはしないな?」
「……」
「なぜ黙る? なぜ目を逸らす?」
「じょ、冗談ですよ」
「はぁ……今回だけだからな」
「えっ、いいんですか!?」
「まあ……これも、なんでも、の範疇っていうことで」
「はい!」
鈴はとても嬉しそうに笑う。
この笑顔を見ることができたのから、これでよしとしておこう。
――――――――――
鈴と一緒にベッドに寝て、明かりを消した。
5分くらい経っただろうか?
「……直人さん」
「うん?」
「もう寝ましたか?」
「いや、返事しているから」
「そ、そうですよね……あはは」
ぎこちない笑い。
それと、仰向けになったまま、ピクリとも動いていない。
「眠れないのか?」
「えっと……まあ、はい」
「そっか。なんか話でもする?」
「……」
「……」
「鈴?」
「ひゃい!?」
びくん、という反応。
おかしいな?
この様子を見る限り、
「もしかして……緊張してる?」
「ソ、ソノヨウナコトハ……」
めっちゃくちゃ緊張していた。
「うぅ……だってだって、仕方ないじゃないですか。すぐ隣に大好きな人がいて、ちょっと腕が触れていて……」
「まあ、二人用のベッドじゃないからな。でも、前に一緒に寝たことあったじゃないか。あの時は元気だったのに」
「それは、違うところで寝ていたから……同じベッドになると、なんかこう、ドキドキ感がすごくて。わー、っていうか、ひゃー、っていうか、そんな感じになっちゃうんです」
なるほど、わからん。
でも、緊張するのは理解できた。
俺だって緊張する。
とはいえ、あまりにも鈴がガチガチになっているものだから、逆に落ち着いてきたけど。
「俺、床で寝ようか?」
「あうあう、それはそれで寂しいというかもったいないというか……」
「わがままだなあ」
「うぅ……絶好のチャンスなのに。一線を超える機会なのに。まさか私が、いざという時にチキンになってしまうなんて」
小学生がチキンになる、とか使わないでほしい。
それ、どちらかというとヤンキー言葉じゃないか?
あるいはギャル。
「あれこれ考えないで、お泊り会を楽しむ、ってことだけ意識すればいいんじゃないか?」
「そう言われても……」
「……でも、意外だな。こういう時でも、鈴は、もっとグイグイ攻めてくると思っていた」
「私もそう思っていました……」
「子供らしいところ、っていうか、小心者なところがあるんだな」
「むっ、それは聞き捨てなりません。私のハートは、どんな物事にも応じない鋼鉄でできていますよ」
「そうか? コンと叩いただけで割れる虚弱ガラスに思えるけど」
「なんですか、虚弱ガラスって!?」
「ほら。映画とかドラマで使う、簡単に割れて安全なガラス。あれ」
「私のハート、しょっちゅう割れちゃうじゃないですか!?」
「ご愁傷さま」
「祈らないでください! 現実になりそうで嫌じゃないですか!?」
「でも、すでに現実になっているからな……」
「呪いですか!? 嫌ですよ、それ! うぅ……直人さんのせいで、私の心がものすごく華奢になってしまいました……あふぅ」
どうでもいい話を続けていると、鈴があくびをこぼした。
なんだかんだ、いつもの調子を取り戻したみたいだけど、今度は睡魔が襲ってきたらしい。
まあ、それも仕方ない。
俺にとってはまだまだ起きていられる時間だけど、小学生にとってはだいぶ遅い時間だからな。
「うぅ……せっかくのチャンスなのに、調子を取り戻してきたのに」
「無理するな。小学生なんだから、もう寝た方がいい」
「……小学生なんて嫌です。早く大人になりたいです」
ぽつりと、そうつぶやくのが聞こえてきた。
「ほら、寝よう」
聞こえなかったフリをして、鈴の頭をぽんぽんと撫でた。
子供扱いすると怒られるかもしれないが、でも、こうするとけっこう眠れるものだ。
「うー……私は、こんな、ことでぇ……」
「鈴?」
「……すぅ、すぅ」
すぐに寝息が聞こえてきた。
なんだかんだ、ものすごく眠くて、けっこう我慢していたのだろう。
苦笑しつつ、鈴の頭をぽんぽんと撫で続ける。
「俺は……」
この子のこと、どう思っているんだろうな?
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