50話 なんでも、ですよ?
「ふぅ……」
湯船に浸かると、自然と吐息がこぼれた。
鈴がウチに泊まる。
今まで遊びに来たことはあっても、泊まるのは始めてだ。
少し緊張しているらしく、風呂に入るとリラックスできるのがわかった。
「……なんだろうなあ」
最近の鈴は、以前と比べると、よりグイグイ押してくるようになった。
勝負を賭けている?
それとも無意識?
どちらにしても厄介だ。
「……」
絆創膏が貼られた指を見る。
あんなことを何度もやられたら、恋心かどうかはともかく、ドキドキさせられてしまう。
それを繰り返されたら……
「どうなるんだろうな、俺」
「どうなっちゃうんですか?」
「なっ……!?」
気がつけば扉を開けて、バスタオルを巻いただけの鈴が風呂に乱入してきた。
「ちょっ……!?」
「にひひ、来ちゃいました♪」
「来ちゃいました、じゃないだろ!? 早く出ていけ!」
「嫌ですぅ。今日の直人さんは、私のいうこと、なんでも……ですよ?」
「それはそうだけど、でも、さすがにこれはやりすぎだろ!?」
「ふふ♪ 慌てる直人さん、可愛いですね。今日は、本気の私を見てくださいね?」
「いや、だから……!」
さすがに、これはまずい。
なにもしなかったとしても……
いや、もちろん、なにもするつもりはないけど!
ダメだろう。
アウトだろう。
逮捕だ。
そして、俺は懲役刑に……ダメだ、めちゃくちゃ混乱している。
「なーおーとーさん♪」
「ま、待て……落ち着け。俺を食べても美味しくないぞ?」
「私、変わったものが好きなので大丈夫ですよ」
「えっと、ほら……自分を大事にするんだ。もっとよく考えた方がいい」
「大事にしていますよ? だからこそ、直人さんと一緒にお風呂、です♪」
「思考回路がバグっているんじゃないか!?」
「失礼な、正常ですよ。28時間、直人さんのことを考えていますから」
「やっぱりバグっているじゃないか! プラス4時間、どこから持ってきた!?」
「……」
不意に鈴が口を閉じた。
じっとこちらを見て……
次いで、肩を震わせて笑う。
「ふっ……あは、あはははっ」
「す、鈴……?」
「直人さん、本当に慌てすぎですよ。もう、そんな風にされたら、もっともっとからかっちゃいたくなるじゃないですか♪」
悪魔か。
「大丈夫ですよ」
鈴は体に巻いたタオルに手を伸ばした。
ゆっくりと結び目を解いて……
「ちょ……!?」
「じゃーん♪」
タオルが落ちて……
その下から水着が。
「実は水着を着ていましたー! 安心しましたか? それとも、残念でしたか? ふふ♪」
「……」
「もう、直人さんったら、すごい慌てぶりです。笑うのを我慢するの、必死でしたよ? ダメですよー、高校生ならもっと余裕を持たないと」
「……」
「でも、本当は期待していました? 女子小学生の裸に興味津々でした?」
「……」
俺は無言のまま、鈴が落としたタオルを拾い、腰に巻いた。
そして、手を伸ばす。
「えっと……あ、あれ? なんだか、直人さん、怖い顔を……」
「いたずらも……ほどほどにしろぉおおおおお!!!」
「ぴゃあああああっ!?!?!?」
とりあえず……
1分ほど、こめかみをグリグリしておいた。
――――――――――
「あううう……まだ痛いですよぉ」
「自業自得だ」
あれから風呂を上がり、互いに寝巻きに着替えていた。
鈴はしくしくと涙を流しつつ、こめかみの辺りを両手で押さえている。
手加減抜きで本気でやったため、今もヒリヒリとしているようだ。
まあ、自業自得なので同情はしない。
風呂場のアレは、さすがにやりすぎだ。
「ぶー、ちょっとした冗談じゃないですか」
「ちょっと、じゃない。とんでもない、だろ」
「でもでも、直人さん、ものすごく慌てていましたよね? もしかしたら、あのままいけば、うまくいっていた……? 直人さんが私に手を出していた……? それなら……あいたたたたたっ!?」
「ぜんぜん懲りていないようだな?」
「ギブ!? ギブです、もうしません!? ごめんなさーいっ!!!」
しっかりとお仕置きをして、鈴にはしっかりと反省してもらうのだった。
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