47話 相談は大人の先輩にお任せあれ
学食で昼を食べて、それから中庭へ。
「あ、結城君。こっちだよー!」
「すみません、おまたせして」
「ううん。私も今、ごはんを食べ終わったところだから」
どうやら小柳先輩は弁当らしい。
ベンチの隣に小さな弁当箱が置かれていた。
「それで……大人な先輩に相談したいこと、っていうのは!?」
小柳先輩はどこかの誰かのように目をキラキラと輝かせつつ、そう意気込んで尋ねてきた。
よほど相談を受けるのが嬉しいらしい。
おせっかいなのか。
それとも、大人らしくあることが嬉しいのか。
……両方かな?
「えっとですね……女の子の友達についてなんですけど」
友達の話なんだけど……という逃げは止めておいた。
先輩なら簡単にごまかせるような気がしたけど、とても誠実に向き合ってくれそうで……
なら、俺もまっすぐ向き合わないといけないと思う。
「この前、ちょっとしたことで怒らせてしまって」
「ダメだよ、ケンカは」
「あ、いえ。一応、仲直りはしたんです。ただ、お詫びになんでもする、ってことになって……いったいどんなことになるんだろう、とちょっと怯えていまして」
「なるほどなるほど。それは難しい問題だね。ちなみに、その友達は無茶なことを言うような性格をしているの?」
「うーん……基本、常識人ですよ。礼儀正しく真面目で、まあ、ちょっと小悪魔っぽいところはありますけど、あまり無茶は言いません」
ただ……
俺のことになると無茶を言いそうで怖いんだよな。
鈴は賢い子で、大人びている。
ただ、なんだかんだ子供なのだ。
好きなものに目をキラキラと輝かせて、拗ねて、時にわがままを言う。
だから、今回の件、子供らしく無茶を言うような気もして……
ダメだ。
まったく先の展開が読めない。
「その子は大事な友達?」
「はい」
「そっか。なら大丈夫。心配する必要はないよ」
小柳先輩は即答した。
すごく自信がある様子で……
それだけじゃなくて、俺を安心させてくれる優しさ、柔らかい雰囲気も兼ね備えていた。
「どうして……そう言い切れるんですか?」
「だって、結城君の大事な友達だもん」
「え」
「私はその友達は知らないけど、でも、結城君のことなら知っているよ。すごく優しくて、友達想いの良い子。そんな結城君の友達なら、絶対に良い子。多少、困らされちゃうかもしれないけど、本当に困るような無茶は言ってこないよ。絶対に……ね♪」
「……」
小柳先輩って、年上だけど小さくて可愛くて……
でも、それだけじゃなかった。
とても優しくて、包容力のある人だ。
小学生みたいだけど、それは見た目だけ。
心は立派な大人だ。
「どうしても不安なら、先輩がおまじないをかけてあげる」
「おまじない、ですか?」
「ここ」
小柳先輩は、自分が座るベンチの隣をぽんぽんと叩いた。
隣に座れ、ということだろうか?
不思議に思いつつも、その通りにベンチに座る。
「良い子、良い子」
「ちょ……!?」
ふわりと香り甘い匂い。
優しく、柔らかい感触。
小柳先輩に抱きしめられている……!?
「えっ、いや、あの……」
「大丈夫、大丈夫。きっとうまくいくよ、大丈夫だから……ね?」
「……」
なんだろう。
よくわからないけど落ち着くな。
小柳先輩は子供みたいだけど、でも、今は俺が子供のような気持ちになっていて……
癒やされる。
「……って、まずいから!?」
「ひゃっ」
色々とまずい状況ということを思い出して、慌てて小柳先輩から離れた。
「どうしたの? もっと甘えてもいいんだよ?」
「いえ、それは、まあ……十分なので」
「そう? 残念……」
なんで小柳先輩が残念がるんですか?
「とりあえず、落ち着くことができました。ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしましてー」
「先輩には助けられてばかりですね。なんか、お礼をしたいんですけど……」
「そんなことないよー。私も、結城君に何度も助けられているからね。そのお返しと思ってくれていいよ」
「えっと……なら、そういうことで」
小柳先輩のことだから、しつこく食い下がっても迷惑をかけるだけだろう。
ここは素直に好意に甘えておくことにしよう。
(……それにしても)
小柳先輩って、本当に良い人だな。
見た目は小学生で。
お姉さんぶることが多くて。
でも、とても優しい。
心が清らかで澄んでいて、一切の濁りがない。
こんな人、なかなかいない。
まるで鈴みたいだ。
(って……なんで、そこで鈴が出てくるんだ?)
確かに、あいつも綺麗な心の持ち主だ。
やや小悪魔的ではあるものの、それも子供特有のものと思えば可愛いくらい。
優しくて温かい笑顔を持っている。
(いや、待て。鈴にしろ小柳先輩にしろ、見た目が幼い相手にこんな評価をするなんて、俺は、偏っていないか? 自覚していないだけで、本当は、とても偏った性癖の持ち主なのか……?)
……上昇した気分が再び下降した。
「どうかしたの?」
「……いえ、なんでもありません」
うん。
深く考えないようにしよう。
困った時は現実逃避が一番だ。
「それじゃあ……小柳先輩、ありがとうございました。この恩は、いつか必ず」
「だから気にしなくていいのに。でも、せっかくだから期待しようかな♪」
「そうですね……そうだ。今度、俺のバイト先に来てください。コーヒーがとても美味しいところなので、ごちそうしますよ」
「……コーヒー……」
「パンケーキとかもありますよ」
「パンケーキ!」
とてもわかりやすい反応だ。
「楽しみにしているね」
「はい。じゃあ、また今度」
「うん、ばいばい」
互いに手を振り、その場を後にした。
……うん?
俺、もしかしなくても、デートの約束をしたのだろうか?
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、
『ブックマーク』や『☆評価』などをして、応援をしていただけますと嬉しいです!
(『☆評価』は好きな数値で問題ありません!)
皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




