46話 よしよし
翌日の学校。
俺は、ぼーっとしつつ授業を受けていた。
『なんでも、の内容はまた今度にしますね。すぐに思いつきそうにないので』
……なんて、後回しにされたのだけど。
ものすごく不安だ。
いったい、どんなお願いを口にするのやら?
事案になりそうなことはダメと、釘を刺しておいたものの……
鈴って、価値観やら倫理観がちょっと壊れているからな。
一般常識を平気で踏み越えてきそうで怖い。
「やれやれ」
鈴のことは考えても仕方ないか。
なるようにしかならない。
「おーい、直人。飯、行こうぜ」
そう誘ってきたのは、中学生の頃からの友達の新井藤太だ。
親友で悪友。
学校では藤太と一緒にいることが多い。
「了解」
「直人は、今日、なににする?」
「んー……ラーメン?」
「またラーメンかよ。好きだなあ」
「また、とか言うなよ。うちの食堂、つけ麺とかまぜそばとかあって、種類豊富だから飽きないんだよ。それに美味いし」
「ま、美味いってところは納得だけどな。どんなメニューもマジで美味い。おまけに安い。学生の最高の味方だな。俺、学食のおばちゃんとなら結婚してもいい」
「そっか、おめでとう。俺、代わりに藤太の気持ちを伝えておくよ」
「やめろよ!? お前、本気でやるからな!?」
「冗談だよ……って、しまった」
「どうした?」
「財布、忘れてきた」
「おいおい……危ないな。しっかりしろよ」
「先に行っててくれ、すぐに追いつく」
「あいよ」
「席の確保も頼む。あと、注文も。俺、つけ麺な」
「注文多いな、このヤロウ!」
なんだかんだ言いつつも、俺のわがままを聞いてくれる藤太は良い友達だ。
サッカー部の期待のエース。
それだけじゃなくて、学力もトップクラス。
アイドル並のイケメンで、性格良し。
当たり前だけど彼女もいる。
……よくよく考えると、そんな超リア充が、なんで俺とつるんでいるんだろうな?
謎だ。
「ま、なんでもいいか」
藤太は気の合う友達。
それだけでいい。
「えっと……お、よかったよかった」
教室に戻り鞄を調べると、ちゃんと財布が入っていた。
盗まれることもあるから、ほんと、気をつけないとな。
急いで食堂へ……
「あれ、結城君?」
「小柳先輩?」
小柳先輩とばったり出会う。
この人……相変わらず小さいな。
制服を着ていなければ、絶対に小学生と間違えているぞ。
「廊下は走ったらいけないんだよ、めっ」
「ご、ごめんなさい……」
小柳先輩に叱られると、ものすごく申しわけない気持ちになるんだよな。
なんていうか、こう……
親が子供に叱られる感覚?
悪いことをしてしまった、と本気で反省してしまう。
「うん、わかってくれればいいんだよ。あと、きちんと謝ることができて偉いね。よしよし」
「ちょ……」
小柳先輩はぐっと背伸びをして、俺の頭を撫でた。
「いや、あの……小柳先輩?」
「ちゃんと褒めてあげることが大事なんだよ、よしよし」
「えっと……」
ものすごい恥ずかしい。
通りすがる生徒が微笑ましそうな視線を送ってくるのも、めちゃくちゃ恥ずかしい。
ただ、小柳先輩は善意でやってくれているわけで……
しかも、思い切り背伸びをして、ぷるぷると足を震わせつつがんばってくれているわけで……
「……」
ふと思い、軽くかがんでみた。
これなら頭を撫でやすいと思う。
「むぅ」
鈴がそうするように、小柳先輩は頬を膨らませた。
やめてください。
それが高校三年生がする仕草ですか。
微笑ましいやら楽しいやら、吹き出してしまいそうになる。
「……私のこと、小さいと思っているでしょ?」
「いえ、そんなことは……」
「だって、かがんだ。頭を撫でやすいように、ってかかんだもの」
ごきげん斜めになってしまったみたいだ。
どうしよう?
「えっと……そんなことはないですよ。小柳先輩は、俺の知る限り、もっとも大人に近い素敵な女性です」
「えっ、本当!?」
「はい、もちろん。最初、小柳先輩を見た時、どうしてこんなところに大学生が? と不思議に思ったくらいですから」
「そっかそっかー、えへへ♪ やっぱり、そう見えちゃう? 私、大人っぽいからねー」
渾身のドヤ顔を決める小柳先輩。
それがまた可愛らしく、子供らしく……
だ、ダメだ。
また笑ってしまいそうになる。
「どうしたの?」
「いえ……なんでも」
「そっか。本当になんでもないならいいんだけど、もしも、なにか悩み事があるなら言ってね? 私で良ければ相談に乗るよ」
「……どうして、悩み事がある、って?」
「んー……なんとなく、かな?」
驚いた。
小柳先輩は確かに子供っぽいけど、でも、年上らしく人を見る目は養っているんだな。
「……なら、後でちょっとだけいいですか?」
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