43話 なぜこのタイミングで?
部屋は1LDK……かな?
きちんと掃除されていて、清潔感がある。
散らかっているということもなくて、綺麗に整理整頓されていた。
部屋は心が現れる、って聞いたことがあるけど、その通りかもしれない。
綺麗なだけじゃなくて、ぬいぐるみもたくさんあって……
うん、小柳先輩らしい部屋だ。
「荷物はキッチンまでお願いしてもいいかな?」
「はい」
「ありがとう。そこからあとは私がやるから、結城君はリビングでくつろいでいて」
「えっと……了解です」
言われた通りリビングに移動して、ソファーに座る。
友達が来た時のためなのか、L字型の大きいソファーだ。
テーブルを挟んだ先に、それなりに大きいテレビ。
テレビボードにはゲーム機が複数、置かれていた。
「小柳先輩って、ゲームやるんですね」
「うん。けっこう好きな方だよ」
「ちょっと意外です」
「そんなに真面目に見えた?」
最近のゲームは子供には難しいから、なんて意見は口にしない。
「あ」
ゲームソフトを並べている棚に『ファンネク』を発見した。
もしかして、小柳先輩も『ファンネク』プレイヤーなのだろうか?
もしかしたら、どこかで顔を合わせて、あるいは一緒に戦っているかもしれないな。
……まあ、さすがにそれは出来すぎか。
「えっと、これはここに……これはあそこに……結城君、もうちょっと待ってて。ごめんね」
「いえ、気にしないでください……ん?」
スマホに着信だ。
画面を確認すると、『鈴』の名前が。
なんで、このタイミングで鈴から電話がかかってくるんだよ!?
出る?
出ない?
普通に考えたら出ない一択なんだけど……
その場合、後で問い詰められそうなんだよな。
鈴は妙なところで勘が良いから、嘘を吐くと、大抵、後で大変なことになる。
「……はい」
迷った末に通話をタップした。
『あ、直人さん? 今、ちょっといいですか』
「本当にちょっとなら」
『ん? なにか忙しいんですか?』
「忙しいといえば忙しいかもしれない」
『そうなんですか。すみません、タイミングが悪くて。明日も遊べたら、なんて思いまして。それで、お誘いの電話を』
「ああ、いいよ。どこに行く?」
『……』
「鈴?」
『怪しいです』
突然、鈴の声のトーンが下がる。
「な、なにが……?」
『すぐに私の誘いに応じるなんて、怪しいです。いつもの直人さんなら、迷うか焦らすか、ある程度の間が入ります。それなのに即答するなんて……まるで、私との会話を早く終わらせたいと思っているみたいです』
なんて名探偵だ。
まずい。
なにがまずいのかよくわからないけど、まずい。
背中を妙な汗が伝う。
心臓の鼓動が速くなる。
『直人さん、なにを隠しているんですか?』
「いや、そんなことは……」
『答えてくれないと、パパとママに、直人さんにお医者さんごっこをしようって言われました、って言いますよ?』
「いやいやいや、それは反則だろう!?」
『じゃあ、今度街を一緒に歩いている時、涙目になってぐすんぐすん、ってやります。それから、小声で助けて、ってつぶやきます』
「もっと凶悪な反則技だから!」
自分が小学生であることを最大限に利用しようとするとか、小悪魔すぎる。
いや、大悪魔?
『なら、隠していることを教えてください』
「なんていうか、えっと……隠しているというか、これは、偶然こうなったわけで……決してよからぬことを考えていたわけじゃない。そこは信じてほしいと……」
「結城君って、日本茶と紅茶、どっちが好きかな?」
「あっ」
『えっ』
キッチンから小柳先輩が顔を出して、そんなことを尋ねてきた。
その声は、ばっちりきっちりはっきり鈴のところにも届いていたらしく……
『直人さんの……浮気者ぉおおおおおおおぉーーーーー!!!!!』
通話が切れた。
「ぐぅ、おおおぉ……」
頭を抱えるようにして耳を抑えて、うずくまる。
なんて声を出すんだ、あいつは……
下手したら鼓膜が破れていたぞ。
「だ、大丈夫……?」
「あ……はい。大丈……やっぱり大丈夫じゃないかも」
「私、変なタイミングで声をかけちゃったんだね……ごめんね?」
「いえ、小柳先輩が謝ることではないので……くぅ」
耳が痛い。
キーンとする。
俺の態度と小柳先輩の声で、たぶん鈴は、逢い引きをしていると勘違いしたのだろうけど……
「そこに至るまでの思考がとんでもないな。普通、そんな答えに至らないと思うんだけど……何度も思うことだけど、あの子、本当に小学生か?」
「今、なんて?」
「いえ、なんでもありません」
よかった、小柳先輩に今のぼやきは聞かれていないようだ。
鈴が小学生だということが判明したら、さらに事態は混沌としてしまう。
「ごめんね……私のせいで、彼女さんが誤解しちゃったんだよね? 浮気者ー、っていうのが私のところまで聞こえてきて」
「彼女ではないんですけど……まあ、仲はこじれてしまったかもです」
鈴とは、1年ちょいの付き合いだ。
ゲームで遊んでいた時もリアルで会うようになってからも、ケンカはしたことがない。
つまり、これが初めてのケンカ。
……どうやって仲直りをすればいいんだ?
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