表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/74

42話 偶然は必然

「またな」

「はい、また今度! いえ、なんなら今からウチにどうぞ!」

「さようなら」

「ぶー、つれないです」


 鈴の門限が近づいてきたので、家の近くまで送る。


 鈴はぺこりと頭を下げて、たたたっと駆けて……

 途中で足を止めて振り返り、ぶんぶんと笑顔で手を振る。


 再び駆けて、やはり足を止めて手を振り、また駆けて……


「また会えるんだから、そこまで惜しむことはないだろう?」

「私は、直人さんと一分一秒でも離れたくないんです! もちろん、夜も一緒です! そして、朝まで一緒です!」

「住宅街でそんなことを強く言わないでくれ」


 警察がいないか思わず周囲を探してしまうじゃないか。


「また遊びましょうね♪」


 鈴は、やや名残惜しそうにしつつ、今度こそ道の先に消えた。


 ここからなら家はすぐそこだ。

 以前のような事件が起きることはないだろう。


「さて、俺も帰るか」

「あれ?」


 聞き覚えのある声。

 しかも、ついさっき聞いた声。


「小柳先輩?」


 どんな偶然なのか、再び小柳先輩と遭遇した。

 買い物の帰りらしく、スーパーの袋を手に下げている。


「結城君? また会うなんて、すごい偶然だね」

「そうですね。小柳先輩は……買い物ですか?」

「うん。私、一人暮らしだから」


 俺と同じなのか。


「荷物、俺が持ちますよ」

「え? そんな、悪いよ」

「けっこう重そうなので、放っておけません。嫌なら諦めますが」

「嫌なんて、そんなことはないけど……うーん、本当にいいの?」

「はい」

「じゃあ……お願いしちゃおうかな? 実は、いつも苦労していたんだ」


 てへ、と笑いつつ、小柳先輩はスーパーの袋をこちらに渡した。


 そこそこ重い。

 でも、そこそこというだけで、大した問題はない。


「どこまで?」

「あ、うん。こっちだよ」


 小柳先輩について、夕暮れがかった街中を歩いていく。


「……自転車とか使わないんですか?」


 無言もどうかと思い、適当な話題を口にした。


「あはは……実は私、自転車に乗れないんだ……」

「え、マジですか?」

「うん。何度か練習したんだけど、どうにもこうにも……」


 自転車に乗れないとか、運動能力も小学生か。


 いや。

 最近の小学生は普通に自転車は乗れるだろうから、幼稚園……?


 幼稚園児の服を着た小柳先輩。

 ……わりと似合うかもしれない。


「むー……結城君、なにか失礼なことを考えていない?」

「いえ、まったく。これっぽっちも。気のせいかと」

「そうなの?」

「はい、もちろんです」

「そっか、ならいいや」


 簡単にごまかせてしまった。


 俺が言うのもなんだけど、小柳先輩は人を疑うということを覚えた方がいい。

 ちょろすぎるぞ。


「毎回、これだけの量を買うなんて大変ですね」

「今日は特別なんだ。ちょっと忙しくて買い物に行けなくて……その分、買うものが増えちゃって」

「ああ、なるほど。たまにやっちゃいますよね。俺も一人暮らしだから、わかります」

「結城君もなんだ? えへへ、一人暮らし仲間だね♪」


 なんで、そこで嬉しそうにするかな?

 にっこりと、太陽のような明るい笑顔。

 普通の人なら、好意があるのでは? と勘違いしてしまいそうだ。


「結城君がいてくれて助かったよ。ありがとう」

「どういたしまして」


 そのまま雑談をしつつ、歩くこと20分ほど。

 綺麗なマンションに到着した。


 ここまでだな。

 荷物を渡して……


「結城君、こっちだよ」

「え? あ、はい」


 エントランスに移動した小柳先輩は、笑顔で手招きする。


 重いから部屋まで、っていうことなのかな?

 俺は問題ないけど……うーん、警戒心がないな。


 男を部屋に招くということ、ちゃんと考えているのだろうか?

 下手をしたら、困ったことになると思うのだけど……


「小柳先輩」

「なに?」

「俺、部屋まで行っていいんですか?」

「もちろん。ここまで運んでもらっておいて、なんのお礼もなし、っていうのはダメだからね」


 お礼もするつもりだったらしい。


「えっと……それ、本当にいいんですか?」

「もちろん。あ、結城君は、この後、なにか予定があった?」

「そういうわけじゃないんですけど……普通、もっと警戒しません? 俺、男ですよ?」

「そうだね」


 あっさりと肯定されてしまう。

 警戒心がないわけじゃない?


「誰でも部屋に上げるわけじゃないよ。結城君だから、かな」

「そこまで信用されるようなこと、しましたっけ?」

「前と今、助けてもらっているよ」

「……それだけで?」

「十分だよ」


 小柳先輩は微笑みつつ言う。


「誰かを助けることができる人は、きちんと相手のことを思いやり、考えることができる人なんだよ。そんな人を疑い、警戒するなんて、どうかと思わないかな?」

「……」

「どうしたの?」

「いえ、なんていうか……」


 そんなことを、とても真面目に、本気で言える人がいるなんて。


 小柳先輩は、年上だけど子供のような人、という印象だったけれど……

 きちんと年上らしいところもあるんだな、と思った。


「はい、ここが私の部屋だよ。どうぞ」

「えっと……お邪魔します」


 ここまできたら、逆に断る方が失礼だ。

 覚悟を決めて、小柳先輩の部屋にお邪魔するのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、

『ブックマーク』や『☆評価』などをして、応援をしていただけますと嬉しいです!

(『☆評価』は好きな数値で問題ありません!)


皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ