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41話 ぷち修羅場

「わぁ、こんなところで奇遇だね」


 振り返ると、小柳先輩がいた。


 全体的に落ち着いた雰囲気の大人のコーデ。

 それでも、見た目は子供という印象は拭いきれない。

 そんなチグハグ感を見せているのは、間違いなく小柳先輩だ。


 って……


 なんでこのタイミングで小柳先輩が!?

 今まで、学校でも外でもまったく顔を合わせなかったのに。


 運命があるとしたら、狙いすぎていやしないか……?


「えっと……こんにちは」

「はい、こんにちは」


 小柳先輩がにっこりと笑う。

 きちんと挨拶ができて偉いね、という感じだ。


 でも、外見は小学生。

 背伸びをしている大人にしか見えない。


「あ、ごめんね? 邪魔しちゃったかな」


 鈴に気がついて、小柳先輩が申しわけなさそうな顔に。

 今日の鈴は化粧をしているから、小学生と気づいていないみたいだ。

 たぶん、普通にデートをしていると思われたのだろう。


 その鈴はどうしているかというと……


「………………」


 ものすごく複雑で、微妙で、奇怪な表情をしていた。


 拗ねているような。

 寂しそうな。

 驚いているような。


 色々な感情が混ざり、なにを考えているのかわからない。


「せっかくだから……うん。ちょっと待っててね」

「え? はい」


 小柳先輩は一度、席を離れた。

 数分して戻ってくる。


「はい、どうぞ」

「ポテト?」

「この前のお礼だよ。あの時はありがとう」

「わざわざ奢ってもらうほどのことじゃ……」

「気にしないで。私は、すごく嬉しかったから。だから、恩返しをしないとね。それがお姉さん、っていうものだよ! えへんっ」

「えっと……じゃあ、ありがたくいただきます」

「うん、どうぞ。本当は、もっとちゃんとしたものを贈りたいんだけど、まさか、こんなところで会うなんて思っていなくて……」

「これでも十分ですよ」

「でも……あ、そうだ。よしよし」


 なにを思ったのか、小柳先輩は俺の頭を撫でた。


 俺は座っていて、小柳先輩は立っている。

 それでちょうどいい高さなのだから、そこを考えるとなんだか泣けてしまいそうだ。


「せ、先輩……?」

「ふふ♪ 良いことをした時は、お姉さんがきちんと褒めることが大事なんだよ」

「この前もしてもらったような……」

「私の気持ち。それくらい感謝しているの……っと」


 小柳先輩のスマホがぴこんとなる。

 たぶん、メッセージが届いたのだろう。


「ごめんね、そろそろ行かないと」

「あ、はい。ポテト、ありがとうございました」

「ううん、二人で食べて。そっちの子も、邪魔しちゃってごめんね?」

「……」


 鈴は応えず、軽く頭を下げるだけに。


「じゃあ、またね」


 小柳先輩は手を振り、店の外に消えた。


「……」

「……」


 再び鈴と二人に。

 なぜか、ものすごく気まずい。


 というのも、鈴はこちらを睨んでいた。

 ついでに、ぷくーと頬を膨らませていた。


 大人の女性に化けたと思っていたのだけど……

 やっぱり、中身は子供のままだ。


「……今の人、誰ですか?」

「えっと……今のが学校の先輩だよ。まさか、こんなところで会うなんて思ってもいなかったけど……」

「本当に知り合いなんですか? 友達とか親友とか……恋人とか。そういう関係じゃないんですか? ぜんぜん会っていない、って言っていたのに」

「違うよ。本当に知り合ったばかりで、ぜんぜん会っていなかった。だから、俺も驚いているよ」

「むぅ……嘘は吐いていないみたいですね。私の、直人さんレーダーが反応していません」


 なんだ、その怪しい機能は。


「それにしては、やたらと距離感が近かったですね?」

「否定できないけど、でも、そういう人なんだと思う。たぶん、誰に対してもあんな感じで接しているよ」


 小柳先輩はよくお姉さんぶるけど、でも、その言動は子供っぽい。

 男女の差もあまり意識していない。

 だから、異性に対しても距離が近いのだろう。


「……あれ?」


 ふと、鈴が小首を傾げた。


「学校の先輩?」

「そう」

「……小学校?」

「なんで小学生を先輩呼ばわりしないといけないんだよ」

「えっ、じゃあ……まさか、高校生なんですか!?」

「しかも三年生」

「……」


 大きな衝撃を受けた様子で、鈴は、口をぱくぱくとさせていた。


「驚くよな、あんな人がいるなんて」

「な、なんてことですか……あんな人、ずるいです。しかも高校三年生っていうことは、合法ロリじゃないですか!」


 だから、どこでそんな言葉を覚えているんだよ。


「というか、あんな人だったなんて聞いていませんよ!? なんですか、あの反則的な外見は!? あれで高校三年生とか、無茶苦茶ですよ!」

「だよな」

「私と、めっちゃキャラが被っているじゃないですか!」

「気にするところ、そこなんだ」

「小学生、っていうところが私のアドバンテージだったのに、まさか、それに匹敵する人が現れるなんて……」

「小学生っていうことは、決してアドバンテージにならないと思うぞ」

「こ、これはのんびりしていられません! 早急に対策を練らないと!」

「小柳先輩とはなんもないぞ?」

「ロリコンにはたまらないでしょう!?」

「俺はロリコンじゃない」

「それはおいておいて」


 置いておくな。

 このまま言い続けて、無理矢理、俺をロリコン認定しようとしていないか?


「むううう……このままだとまずいです。直人さんは妙なところで理屈っぽいから、あの先輩さんとなら合法だよね、とか言って乗り換えてしまうことも!?」

「だから、知り合ったばかりなんだって」

「そんな距離感には見えませんでしたよ? あの先輩さん、絶対に直人さんに気がありますね」

「ないない」

「いいえ、ありますね。だって、直人さんはかっこいいですから。それに気が効いて、いつもこちらを気にしてくれている。周りのことがちゃんと見えていて、視界がとても広い人なんですよ。そんな人、なかなかいません」

「えっと……その、ありがとう」


 本人は意識していないのだろうが、こうも褒められると……少し照れる。


 そして鈴は、俺のそんな反応を見逃さない。


「あれ? もしかして……くふっ、照れています?」

「……別に」

「ごまかさなくてもいいですよ。というか、直人さんの耳、赤いので一目瞭然です」

「マジか」

「ふふ♪ これだけで照れちゃうなんて。直人さんは、もっとしっかりしないとダメですよ? 私は、その気になれば、直人さんの好きなところ100個挙げられますからね。照れ死にしてしまいますよ?」

「たぶん、本気なんだろうな……」

「って、直人さんをからかっている場合じゃないです!? なんていう強力なライバルが……あうあう」

「ほんと、なんでもないし、どうにかなることもないんだけどなあ……」


 一人、慌てる鈴のことは気にせず、俺は、小柳先輩に奢ってもらったポテトをのんびりと食べるのだった。

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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