40話 女性は化ける
土曜日。
俺は駅前のハンバーガーチェーン店でコーヒーを頼み、角の席でのんびりスマホをいじっていた。
鈴に誘われて、今日は一日、一緒に遊ぶ予定だ。
ヒマをしていたから問題はない。
それに、鈴にきちんと向き合わないといけない。
そのためにも、できる限り彼女と一緒にいたいと思った。
……なんか、鈴と一緒に過ごすことが自然になってきたなあ。
こうやって、外堀をじっくりと埋められているのだろうか?
だとしたら、鈴はとんでもない策士だ。
「おまたせしました、直人さん」
「……え?」
振り返り……そして、絶句した。
鈴がいた。
しかし、それは鈴ではないように見えた。
うっすらとだけど化粧がされていた。
小学生という子供らしさは消えて、今は、中学生くらいに見えた。
髪型もいつもと違う。
子供らしい、可愛らしさ重視のものではなくて、大人らしさを意識させる、落ち着いた髪型だ。
リボンなどはつけておらず、代わりにヘアピンで髪をまとめていた。
そのヘアピンも落ち着いたデザインで、彼女の魅力を引き立てている。
さすがに背丈は変わらないものの、その他は全て変わっている。
可愛い、ではなくて、綺麗な鈴がそこにいた。
「鈴、その格好は……」
「ふふ、驚きました? 女は、化粧でかなり化けるんですよ」
「あ、ああ……正直、ものすごく驚いた」
いつもの鈴と違うという理由はある。
でも、それだけじゃなくて、可愛いというよりは綺麗で……
本気で見惚れてしまう。
この子、小学生だからなかなか気づけないのだけど、相当な美少女なんだよな。
そんな美少女が本気出して化粧をしたら、こうなるのか。
女性は恐ろしい。
「どうですか、私? ぜひぜひ、直人さんの素直な感想を聞かせてください」
「綺麗だ」
「へ?」
「すごく綺麗だと思う。可愛いじゃなくて、綺麗」
「え、えっと……その、あの……はぅん」
鈴は耳まで赤くした。
まるで、りんごだ。
自分でやっておいて、いざとなると照れる。
鈴は、けっこう打たれ弱いところがあるんだよな。
「……うん、本当に綺麗だ」
「あぅ」
「ドラマに出てくる女優かと思った。いや、それ以上かな」
「ふぇ……」
「シンデレラ、ってあるだろう? まさにアレだな。現代版シンデレラ。それくらい華麗に美麗に綺麗に変身しているよ」
「はぅあぅ」
鈴はものすごく慌てていた。
……計画通り。
普段、色々とからかわれているからな。
こういう時にやり返しておかないと。
ふふふ、どうだ?
恥ずかしいだろう。
照れくさいだろう。
少しは反省してもらわないとな。
「えっと……」
ふと、鈴の様子が変わる。
頬は染めたままではあるが、じっとこちらを見て……
ややあって、ニヤリと笑う。
「さては……私をからかっていますね? からかい返していますね?」
バレたか。
「むぅ、そんなことをするなんて……ふ、ふふふ」
「あれ?」
「えへ、えへへへっ♪」
怒るかと思いきや、なぜか喜んでいる。
「もう♪ 直人さんってば、高校生なのに子供っぽいところがあるんですね」
「え?」
「私をからかいたい。つまりそれは、気になる子に意地悪をする男の子と同じ!」
「なっ……」
「そう! 直人さんは、私が好きだから、からかい返した。いつも気にして、気にして、気になっているんですね? そういうことだと、私は解釈しました!」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「でも、今の直人さんの行動、好きな子に意地悪する男の子そのものでしたよ?」
……まったく反論できない。
なんてことだ。
口で負けるだけじゃなくて、好意アリ認定までされてしまうとは。
「くっ……やっぱり、俺じゃあ鈴に勝てないのか……」
「ふふん、もうちょっとでしたね? でも、私に届くにはまだまだでしたね、ざんねーん。くすくす♪」
鈴が小悪魔からメスガキに進化してしまった……
いや、退化?
「……でもまあ」
こういう時間が一番楽しいんだよな。
ネットでもリアルでも、色々な友達ができて。
それなりの時間を遊んできて。
でも、一番気が合うのは鈴だ。
俺の考えていることを読んでいるのでは? と思うくらい、相性が良いと思う。
だから……
「……だから?」
その先を考えることは、なぜかできない。
なんだろう?
俺は今、なにを考えようとしていたんだろう?
「直人さん?」
「……いや、なんでも」
思考の迷路に迷い込んでしまいだったので、考えるのを止めた。
「それよりも、なんでそんな格好を?」
「いつも違う私にドキドキしてもらいたくて」
見事に術中にハマり、ドキドキしてしまった。
なかなかの策士だな、こやつ。
「あと、直人さんの意識を改めて私に向けておこうと思いまして」
「うん? どういうことだ?」
「結局、先日できたという年上の先輩さんとやらの正体は不明のままですし……このまま手をこまねいていたら、直人さんを取られてしまうかもしれません!」
「……だから対抗して、大人っぽく見せてきた?」
「はい!」
ドヤ顔を見せる鈴。
こういうところは子供っぽいままだ。
あと、思考回路も。
「前にも言ったけど、俺と先輩はただの友達……なのか、それも怪しいくらいの知り合いだよ。宮ノ下が気にすることじゃないさ」
「むー、それが納得できないんです」
宮ノ下はとても真面目な顔をして言う。
「私の勘によると、その先輩さんは、とても厄介な存在になります。いわゆる、恋のライバルというやつですね。だからこそ、今のうちにリードを広げておかないといけないんです」
「大げさだなあ」
苦笑する。
小柳先輩をライバルというが、考え過ぎだ。
あれからなにもない。
なんなら顔も合わせていない。
そんな相手とどうにかなるなんてこと、普通に考えてありえな……
「あれ? 結城君?」
ふと、聞き覚えのある声が。
「わぁ、こんなところで奇遇だね」
「え……小柳先輩?」
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