4話 来ちゃった
休日はあっという間に過ぎて、いつものように月曜日がやってきた。
月曜日、やだ。
学校、めんどうくさい。
「とはいえ、行かないわけにはいかないか」
朝食を食べて、食器は水に浸けておく。
それから洗濯をして、室内干し。
他に残った細々とした家事を片付けて、制服に着替えて学校に出発。
「あ♪ おはようございます、結城さん」
ばたん。
「……なんだ、今の?」
家の扉を開けたら宮ノ下がいた。
最近、色々な意味で彼女のことを考える機会が多いから幻を見てしまったのだろうか?
恐る恐る扉を開ける。
「きちゃった♪」
ばたん。
おかしいな、宮ノ下の幻が消えてくれない。
こんなところに彼女がいるわけないのに……
もう一度扉を開けると、頬を膨らませた宮ノ下がいた。
やっぱり幻じゃないみたいだ。
「ひどいです。そんな対応されたら傷つきます」
「ごめんなさい?」
「でも、許してあげます。妻は寛容であるべきですからね」
「誰が妻なんだよ!?」
「将来の妻です」
「勝手に決めるな!」
「こうして毎日言っておけば、そのうち事実になるかな、と」
距離の詰め方が色々と怖い。
「私、色々と尽くしますよ? ちゃんと家事はしますし、美味しい料理も作ります。もちろん夜も……きゃっ♪」
「それよりも」
「スルーされました……むぅ」
「拗ねないで」
他にどう反応しろと?
「どうしてここに?」
「結城さんと一緒に学校に行きたいと思いまして。あ、学校は違うだろう、というツッコミはいらないですよ? 途中まででも行きたい、という乙女心です」
「それよりも先に説明することがあるだろう」
「えっと……おはようのキスですか?」
「違う」
「えへへ、冗談です」
この子、本当に小悪魔だな。
「昨日、オフ会の時に結城さんのスマホを少し借りましたよね? バッテリーが切れたので、充電するまで貸してください、って」
「あったな」
「あの時に、GPSのアプリをちょこっと」
「手口がストーカーじゃないか……」
「その……ごめんなさい。強引だったことは謝ります。不快に思われたのなら、すぐに姿を消します」
そこでしょんぼりするのは反則だ。
狙っているのか、それとも自然体なのか。
この子なら前者の可能性もありそうだけど、なんともいえない。
「はあ……怒ってないよ。驚いただけだから」
「なら、一緒に登校してくれますか?」
「……途中まででいいのなら」
「ありがとうございます♪」
――――――――――
「~♪」
隣を歩く宮ノ下はとてもご機嫌だった。
にっこり笑顔で鼻歌を歌っている。
「そんなに嬉しい?」
「はい、嬉しいですよ。だって、好きな人と一緒にいるんですから」
「それ、あまり外では言わないでくれ」
事案になってしまう。
「まさか、アイリスがこんなにぐいぐい来る女の子だったなんて……」
「私、どんな風に思われていたんですか?」
「んー……なんていうか、男友達っぽい感じ?」
「ショックです……」
「ごめんって」
「その認識を正すため、もっともっとアピールしていきますね♪ キスとかしましょうか? ハグ? それとも……ふふふ」
「い、いいから」
「おや、おやおや? もしかして、想像して照れてしまいましたか? ふふ、これは脈アリですね」
にひひ、と笑う宮ノ下。
その笑顔はまさに小悪魔。
ゲームキャラのアイリスに、にゅっと羽と尻尾が生えてしまう。
「それにしても……」
宮ノ下は赤のランドセルを背負っていた。
最近の小学生らしく、ランドセルはデコ? で飾られている。
あと、防犯ブザーがついていた。
「本当に小学生なんだな」
「なんだと思っていましたか?」
「ちょっと成長の遅れている中学生だったら嬉しかった」
いや。
中学生でもアウトだと思うけどさ。
でも、小学生よりはマシな気がした。
「……やっぱり、大人の方がいいですか?」
「恋愛をするとしたら、そうだよな」
「そうですか……」
「でも、まあ……宮ノ下は宮ノ下だから」
ぽんぽんと、彼女の頭を撫でた。
「俺が言うのも変だけど、焦る必要はないよ。宮ノ下らしくあってほしい。その方が俺も嬉しいよ」
「……結城さん……」
ひしっと宮ノ下が抱きついてきた。
「やっぱり、大好きです♪」
「わっ、こら!? 抱きつくな!」
「いやですー、離れませんー」
「まずいって、こんなところを見られたらまずいから!?」
「兄妹っていうことにすれば問題ないですよ。というわけで、ふふ……女子小学生の感触をしっかりと味わってくださいね」
「言い方が生々しい!」
「逃してあげませんからね♪」
なぜか、蜘蛛に囚われた蝶をイメージしてしまうのだった。
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