39話 妹は見た!
……悲劇は唐突に訪れる。
事前に察知することができず。
避けることができず。
それでいて巻き込まれたら最後、大きなトラブルに発展してしまう。
だからこそ悲劇というのだ。
――――――――――
「やっほー、お兄ちゃん! 可愛い妹がやってきたよー。ジュースとケーキでもてなしてね♪」
「……」
「……」
突然、扉が開いて妹様が姿を見せた。
本当に、あまりに突然のことだったので、俺と宮ノ下……もとい、鈴はどう反応していいかわからなくて固まってしまう。
「……はれ?」
一方の真白も固まる。
家にいるはずのない宮ノ下を見て、なにこれ? という感じで小首を傾げた。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
そして……
「直人さん、この子は誰ですか!? まさか、この子が浮気相手ですか!? 私と同じ小学生とか、やめてくださいよ! キャラが被っちゃうじゃないですか! やり直しです、リテイクです! もう一度、練り直してきてください!」
「お兄ちゃん、女の子を家に連れ込むなんてやるね! うんうん。あたし、少し見直したよ。お兄ちゃんも、やる時はやるんだね。あ、ヤル時は、って言い直した方がいい? でも、あたし思うんだ。さすがに小学生はどうなのかな、って。あたし、お兄ちゃんがロリコンで逮捕されるところを見たら、さすがに泣いちゃいそう」
嵐が訪れた。
鈴と真白、共に俺を質問攻めにする。
誤解を解きたいのだけど、二人の口がまったく止まらないので、説明するヒマがない。
わーきゃー、きゃーきゃー騒ぐ二人。
その間に挟まれる俺。
思わず天井を見上げて、嘆く。
「……俺って、日頃の行いが悪かったのかなあ?」
とても真剣に悩んだ。
――――――――――
30分後。
どうにかこうにか二人を落ち着かせることができた。
テーブルを囲むようにして座り、俺が話の進行を担当する。
「えっと……この子は、俺の妹だ。結城真白。見ての通り、小生意気な小学生だ」
「ちょっとお兄ちゃん。そこ、小生意気ってつける必要あった? 見ての通りっていうのなら、超可愛い天使、ってつけるべきでしょう?」
「見ての通り、頭がアレだ」
「こらー! どういう意味だー!?」
実際、小生意気だろうに。
「それで……この子は、宮ノ下鈴。この前、ネットゲームのオフ会をしたんだけど、そこにやってきたのが、この子だったんだ。で、それからはリアルでもちょくちょくゲームで遊ぶ仲になった。今日、家にいたのはそういうことなんだ」
「直人さん、説明が足りませんよ? 私は直人さんの妻で、生涯の伴侶です。あと、遊園地の観覧車で、夜景を見つつプロポーズした時のことも話してください」
さらりと嘘を吐いて、既成事実を作ろうとするな。
あと、どうにかこうにか関係をごまかそうとした努力を返せ。
「ふーん」
「むぅ……」
真白と鈴の視線が交差する。
ただ、バチバチと火花が散っているわけではない。
まずは相手の様子を探る感じで、距離を置いていた。
「……宮ノ下ちゃんは、どうして、お兄ちゃんの家にいたの?」
「だから、それは……」
「お兄ちゃんの説明じゃわかんない。黙ってて」
「はい……」
妹の圧に負ける兄。
情けなさすぎる。
「それで、どうしてお兄ちゃんの家に?」
「直人さんの妻なので」
「おいこら。だから、さらっと嘘を吐くな」
「……妻になる予定なので」
それを嘘と決めつけると、鈴の告白に対する返事も決まってしまうわけで……
くっ、なんてずる賢い。
これじゃあ、訂正できないじゃないか。
鈴がこちらを軽く見て、ニヤリと笑う。
計算づくかよ。
「はぁ……もうどうにでもなれ。二人で好きに話し合ってくれ、任せた」
こうなったら、俺にできることなんてない。
相手が小学生だろうが、女性は男性よりも強いのだ。
流れに身を任せることにして。
あと、二人の話し合いも適当に任せることにして。
俺はスマホを手に取り、ゲームを起動するのだった。
――――――――――
「お兄ちゃん!」
しばらくしたところで、真白が俺を呼ぶ。
どうやら話し合いは終わったみたいだ。
真白はニヤニヤと笑い、肘で小突いてくる。
「やるじゃん」
「……え、なにが?」
俺、なんで褒められているの?
「お兄ちゃんに彼女とか、絶対に無理だと思っていたけど、そうでもなかったんだね。こんなに可愛くていい子を掴まえるとか、見直したよ」
「掴まえてないからな?」
「照れなくていいよ、照れなくてもー」
この様子だと、言い訳をしても無駄っぽい。
真白の中では、俺と鈴は付き合っている、という認識になったようだ。
「あー……真白は反対しないのか?」
「なんで?」
「小学生と高校生だぞ? ありえないだろ」
「わりと普通じゃない」
「え?」
「そんなにたくさんいるわけじゃないけどね。高校生と付き合っている、っていう友達、いるよ?」
「マジか……」
「大学生とか社会人の彼氏がいる、っていう子もいるよ?」
「マジかよ!?」
日本、終わってないか?
「話してみてわかったけど、けっこういい子じゃん。大事にしなよ?」
「いや、だから……」
「って、そろそろ帰らないと。今日は、本当に様子を見に来ただけなんだよねー。じゃあ、お二人さん、幸せにねー!」
真白は言うだけ言って、場をかき乱すだけかき乱して、家を出ていった。
「いい妹さんですね」
「……でも、思い込みがとても激しくて、ついでに人の話も聞かなくて、それとわがままでおねだり好きで、小生意気なんだよ……」
思わず天を仰いでしまう俺だった。
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