37話 わんこ系小学生
「えっと……改めて、すみません」
「ふぇ?」
握手を終えて。
それから改めて頭を下げると、小柳先輩は不思議そうに小首を傾げた。
「突然、どうしたの?」
「俺、知らなかったとはいえ、先輩にとても失礼なことを言って……あと、態度もひどかったし……ああもう、なにをしているんだ、俺は。という感じで、もう一度、しっかりと謝っておかないと、って」
「ふふ。結城君は真面目さんなんだね。でも、大丈夫。私は本当に気にしていないから」
「でも……」
「私は、自分の見た目のこと、ちゃんと理解しているからね。同じ学年に見えたとしても不思議じゃないよ。というか、仕方ないよ。慣れっこだからね……ふ、ふふふ。そう、慣れっこなんだよ……」
小柳先輩は遠い目をしてたそがれた。
なんか、本当にごめんなさい。
この調子だと、同じ学年じゃなくて小学生に見えていました、なんてことは絶対に言えないな。
「それに、結城君はこうして、何度も謝ってくれたから。それなのに怒ることなんてできないよ」
「優しいんですね」
「そうかな? そうでもないよ。それよりも、優しくて偉いのは結城君だよ。きちんと謝ることができて偉いね。よしよし」
今度は、逆に俺が頭を撫でられた。
「んーっ……!」
身長差があるため、小柳先輩は爪先立ちになって、ぷるぷる震えつつ、どうにかこうにか俺の頭を撫でている。
必死になるところ、可愛い。
大人ぶろうとする子供みたいだ……なんて、またしても口にできない感想を抱いてしまう。
「って……ごめんね。私も、勝手に頭撫でちゃった。男の子って、こういうの嫌だよね……?」
「えっと……大丈夫です。むしろ、嬉しいくらいですよ。小柳先輩って、その、えっと……あー……そうそう! お姉さんのような包容力があるから、とても癒やされました!」
「お姉さん!!!」
小柳先輩が瞳をキラキラと輝かせた。
「そっかー、そっかー。普通にしているつもりだったんだけど、お姉さんオーラは隠せなかったみたいだねー。ごめんねー?」
「えっと……」
「今度は気をつけるね。でも、お姉さんだから、またやっちゃうかも。その時は許してほしいな。お姉さんだから!」
「あー……」
「じゃあ、またねー。ふんふーん♪」
とてもごきげんな様子で小柳先輩は立ち去る。
「……あの人、ちょろいのかもな」
――――――――――
「ただいまー」
「おかえりなさい! ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し♪」
「なんで家の中に入っているんだよ」
「いたたたたた!? 痛い、痛いです! これ、本当に痛いですよ!?」
いつの間にかウチに入り込んでいた宮ノ下のこめかみをグリグリした。
「うー……ドメスティック・バイオレンスです」
「躾だ」
「私は忠犬ですが、怒る時は怒りますよ? わんっ!」
「よし、もう一回いこうか」
「ごめんなさい!? きゅーん……」
宮ノ下が本当に犬に見えてきた。
「まさか、不法侵入までするとは」
「妻なので、合鍵を作って中に入るくらい、許されていいと思いません?」
「妻じゃないからダメ。まったく……」
気がつくと、宮ノ下は独自の方法でぐんぐんと距離を詰めてくる。
小学生とは思えない行動力だ。
それと最近は、顔合わせをした時のような遠慮さがなくなっていた。
隙があれば好意を伝えて、越えてはいけないラインを越えようとしてくる。
それをよしとするか。
あるいは、ここらで釘を刺しておくべきか。
「んー……」
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもないよ」
結局、宮ノ下をたしなめる言葉は思い浮かばなかった。
方法はやや過激になりつつあるものの、彼女は好意を伝えてきて、返事はいつでもいいと待ってくれている。
甘えている状態だ。
なら俺は、宮ノ下のアプローチをきちんと受け止めて、考えていかないとダメだ。
「ところで」
今度は宮ノ下が会話の主導権を握る。
「なにやら、女の匂いがするんですけど」
「なんだ、それ?」
「とぼけないでください。私以外の女の匂いがします。ただのクラスメイトっていう感じがしなくて、ちょっと親しい感じがします」
「それは……共学の高校に通っているんだから、当たり前のことだと思うけど」
「そういうのとは、ちょっと違う感じがします。最近、新しい女性と知り合いませんでした?」
たぶん、小柳先輩のことを指しているんだろう。
宮ノ下って、嗅覚が尖すぎないか?
いや、勘?
どちらにしても、この短い間で小柳先輩のことに気づいた感覚がすさまじすぎる。
「あー……偶然、先輩と知り合いになったんだよ」
「先輩ですか?」
「そう、学校の先輩。雑用を手伝って、それで、友達になって……いや、友達なのか? 向こうはそう言っていたが、さすがに……まあ、そこはよくわからないけど、たぶん、宮ノ下が感じているのは先輩のことだろうな」
「むぅ……」
宮ノ下は頬を膨らませて拗ねた。
そういう仕草、小柳先輩にそっくりだ。
いや。
小柳先輩が宮ノ下に似ているというべきか……なかなか迷うところだ。
「……結城さん」
宮ノ下は、とても寂しそうな声をこぼしつつ、そっと俺の袖を指先で摘む。
その手も震えていて、ちょっとしたことで離れてしまいそうだ。
「私は、その……以前も言いましたけど、私が本妻なら、側室は大丈夫ですよ?」
「……あぁ。そういえば、そんな話をしていたような」
「結城さんがどうしてもというのなら、その、先輩という方も……」
「ていっ」
「あいたぁ!?」
デコピンをすると、宮ノ下はひっくり返った。
スカートがひらめいて、色々と際どい。
「先輩とは出会ったばかりというか、ただの友達だよ。なにもない」
「でも……」
「というか、宮ノ下は、色々と飛ばしすぎだ。もうちょっと落ち着いてものを考えてくれ。俺は……」
「俺は……?」
「……宮ノ下を恋愛的な面で見ていないけど、でも、一番の友達だと思っているよ」
「ふぁ♪」
宮ノ下はとても嬉しそうな顔をして、
「なーんだ、もう。ツンデレですか? ツンデレですね? なんだかんだ言いつつ、私のこと、大好きなんですから♪」
「好きとは言ってないが……あと、ツンデレは違くないか?」
「まあまあまあ。でも、そういうことなら、私達、そろそろステップアップしませんか?」
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