33話 お礼
多田野法人。
それが、宮ノ下を狙うストーカーの正体で……
そして、宮ノ下が通う学校の先生だった。
日々の業務の中、宮ノ下と接するうちに彼女に好意を持ち……
歪んだ欲望を暴走させて……
そして、今回の事件に至る。
宮ノ下のメッセージアプリのIDと番号を知っていたのは、彼が先生だからだ。
非常用の連絡網を利用して犯行に及んだらしい。
最近の連絡網は、メッセージアプリなどを利用しているからな。
傷害未遂で現行犯逮捕。
盗撮など、他にもいくつか余罪があるらしく、執行猶予はつかないだろうとのこと。
しばらくは外に出てこれないだろう。
事件は解決だ。
……解決したのだけど。
「いらっしゃい、結城さん」
宮ノ下の家を訪ねると、にこにこ笑顔で迎えられた。
なんで俺は、また彼女の家に足を運んでいるのだろう……?
「やあ、よくきてくれたね」
「ようこそ。歓迎するわ」
宮ノ下の両親もいた。
顔は母親似。
目元は父親似、かな?
事件のことは、もちろん宮ノ下の両親も知ることに。
二人は、まるで力になれなかったことを後悔して。
それと同時に、俺に深く感謝したらしい。
ぜひお礼をさせてほしいと、家に招待されたのだ。
……なんか、着々と外堀を埋められているような気がする。
宮ノ下が、俺に対する好意まで暴露していたらどうしよう?
宮ノ下と、宮ノ下の両親と一緒にごはんを食べて。
やたらと歓迎されて。
宮ノ下は、終始、笑顔で。
なんだかんだ、楽しい時間を過ごすことができた。
本当なら、ごはんを食べて終わり。
そろそろ……という流れになるはずだったのだけど。
「さあ。どうぞ、結城さん」
気がつけば宮ノ下の部屋に招かれていた。
どうしてこうなった?
なにか企んでいるような気がしないでもないのだが、お礼がしたい、と言われたら無下に断ることもできない。
というか、宮ノ下の両親も止めてください。
小学生の娘が高校生の男と二人きりになっていいんですか?
「はぁ……」
「おや、元気がないですね。女子小学生の部屋に入れるというのは、全ての男性の夢なのでは?」
「そんな偏った夢があってたまるか」
「私の枕をクンカクンカして、ベッドに寝転がり、女子小学生の部屋の空気で肺をいっぱいにするのが普通なのでは?」
「性癖が歪み過ぎだろう」
「ちなみに、私は結城さんの部屋で同じことをしたいですよ!」
「嫌なカミングアウトをするな、本当にやめてくれ」
「ふふふ」
「否定してくれ……というか、部屋に入ることはもう、あまり緊張していないよ。以前にも入っているし」
「一緒に夜を過ごしましたからね」
「言い方。同じ部屋で寝ただけだろう」
「ふふ、いつもの調子に戻ってきましたね」
「まったく……」
いつものように気遣われたんだろうな。
現状に色々と疑問はあるものの……
深く考えないようにしよう。
「それで、お礼って?」
「その前に……」
宮ノ下は丁寧に頭を下げる。
「あの時は、本当にありがとうございました。私のことを助けてもらい、本当に感謝しています。結城さんは恩人です、感謝してもしきれません。ヒーローであると同時に、私の王子様です。改めて、ありがとうございます」
「あ、いや……」
こうして真面目に感謝されると、それはそれで……
「照れています?」
「うるさい」
宮ノ下に内心を見抜かれたことも恥ずかしい。
ニヤニヤと笑っている。
ほんと、小悪魔だ。
「とまあ、堅苦しい挨拶はここまでにして……とにかく、本当にありがとうございました! 結城さんのおかげで、私は無事です。薄い本みたいなことをされないですみました」
「お前、そういう知識をどこで仕入れてくるんだ……?」
「秘密です♪」
かなりディープなものだと思うが……
まあ、いいや。
仕入れた知識がどうあれ、一応、宮ノ下はまっすぐに育っているっぽいからな。
あれこれと口を出すこともないだろう。
「それで、お礼がしたいんですけど……あっ、と驚かせたいので、目を閉じてもらえますか?」
「……いたずらをするんじゃないだろうな?」
「そんなことしませんよ……ふふ」
その笑みはなんだ、そのいたずらっ子のような笑みは。
嫌な予感がしたものの、拒否できる流れではなくて、素直に目を閉じた。
「これでいいか?」
「はい。そのまま、少しの間じっとしててくださいね」
なにか用意するのだろうか?
それとも、らくがきでもされるのだろうか?
妙な緊張に襲われる。
そうして、待つこと少し。
「そのまま……そのままですよ」
「宮ノ下?」
宮ノ下の声がやけに近くに聞こえた。
そして……
「……んっ……」
頬に柔らかい感触が触れた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、
『ブックマーク』や『☆評価』などをして、応援をしていただけますと嬉しいです!
(『☆評価』は好きな数値で問題ありません!)
皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




