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31話 罠と囮

 宮ノ下を送り届けた後、俺は俺で学校へ向かう。

 遠回りになっているものの、早くに家を出たから時間は問題ない。


 ゆっくり歩きつつ、とあることについて考えを広げていく。


「宮ノ下はストーカーに狙われている。その正体は不明。なぜか、宮ノ下のメッセージアプリのIDを知っていた。たぶん、ストーカーは実際に宮ノ下を見たことがある。わりと近いところにいると思う。歳はわからないけど、高齢ではないと思う。若さ故の暴走を感じる。証拠となるメッセージを送りつける、考えなしのところなんてまさにそれ。でも、ストーカーをするような者は、考えなしが当たり前か? 理屈よりも感情を優先するだろう。それにしては、妙に慎重なところもある。一度も姿を見せていないところがそうだ。自分をアピールするつもりがない? それにしては……」


 ぶつぶつと呟きながら歩いていく。


 傍から見ればかなり危ないヤツだ。

 でも今は、他人の視線はどうでもいい。

 ストーカーの問題について考えをまとめたい。


 もう少しでなにかを掴めるような気がした。

 もう少しで答えにたどり着けるような気がした。


 考えて。

 考えて。

 考えて。


 そして、情報を整理して。

 あるいは、収集して。


 そして、とある仮説を立てることに成功した。


「宮ノ下を狙うストーカーの正体は、もしかして……」




――――――――――




 後日。


 宮ノ下と話し合い。

 マスターと先輩に相談して。


 そして、ストーカーを誘い出して、捕まえるための作戦を決行することにした。


 これ以上、ストーカーに時間を与えると、さらに増長するかもしれない。

 そうでなくても、犯人が捕まらない間、宮ノ下は恐怖に晒されることになる。


 それは嫌だ。


 絶対と断言できないものの、あれこれと準備をしたおかげで、それなりに自信のある作戦を立てることができた。

 なので、それを実行に移す。


 そのために、とある場所を訪れたのだけど……


「おぉ……ここがラブホテル」


 ちょっと顔を赤くしつつ、宮ノ下が室内を見回していた。


 部屋は広く、それと比例するかのようにベッドも大きい。

 たぶん、キングサイズだろう。


 ソファーが並ぶ先に50インチくらいの大きなテレビ。

 脇にゲーム機も置かれていた。

 カラオケもできるみたいだ。

 ラブホテルなのに遊ぶ設備が充実しているのは、ちょっと意外。


 これだけ見ると普通のホテルなのだけど……

 奥に視線をやると、風呂。

 壁は透明で、中がバッチリ見える仕様になっていた。


 それと、ベッドの隣の棚。

 何気なく開いてみると、大人のおもちゃが入っていた。

 すぐに閉じた。


 今の、宮ノ下に見られていないよな?

 彼女のことだから、わーきゃー言いながら、興味津々で手を伸ばすような気がした。


「おー……これは、もう、すごいですね!」

「なんでわくわくなんだ……?」

「一度、入ってみたかったんです。将来の予行演習のために!」

「その相手って……いや、なんでもない」


 やぶ蛇になりそうなので、追求しないでおいた。


「もちろん、結城さんとのえっちですよ」

「途中でやめたのに!」

「照れなくてもいいじゃないですか。私は、いつでもウェルカムですよ♪」

「だから、俺を犯罪者にしようとしないでくれ」

「双方の合意があればいいんですよ」

「あってもダメなんだよ」

「理不尽な世の中ですね」

「宮ノ下の思考の方が理不尽だ」

「おぉ……ゆ、結城さん! えっちなおもちゃですよね、これ!?」

「って、そんなものを見つけるな! せっかく触れないでおいたのに!」


 引き出しからとんでもないものを探り当てた宮ノ下を叱る。


 というか、なんでそれがえろいものとわかるんだ?

 最近の小学生は、そこまで進んでいるのか?


 なんかもう、おっさんになった気分だよ。


「というか、よくはしゃげるな……」


 ラブホテルに入ったけれど、遊んでいるわけじゃない。

 これは、犯人を誘い出すための策の一環なのだ。


 うまくいけば、この後、犯人と対峙することになる。

 それなのに、宮ノ下はとても元気だ。


「ふふ。女の子は、覚悟が決まると強いんですよ」

「そういうものか……」

「そういうものです♪ それに……」


 宮ノ下が、じっとこちらを見る。


「結城さんがいますから♪」

「俺?」

「私のこと、守ってくれるんですよね?」

「もちろん」

「なら、大丈夫です! 世界中の誰よりも信頼していますから! 世界で一番……ううん、宇宙で一番信頼しています!」

「……そっか」


 そう言われると、がんばるしかない。

 絶対に負けられないな。


「でも、絶対に気は抜くな。万全の備えはしているものの、でも、予想外の事態ってのは起きる。下手をしたら、宮ノ下にも危害が及ぶ」

「はい……わかっているつもりです」


 真面目な顔になって、


「でも、それはそれ、これはこれ、というやつです。やっぱり、こういう場所はドキドキしてテンションが上がってしまうので!」


 否定はできないのが悲しい。


 なぜ、宮ノ下とラブホテルなんかにいるのか?

 事案になるためではない。

 犯人を誘い出すためだ。


 犯人は宮ノ下に強い執着を見せている。

 そして、仲を邪魔すると思っている俺には、強い敵意を抱いている。


 そんな俺が、宮ノ下と決定的な一線を超えたとしたら?


 とても我慢なんてできないだろう。

 必ず姿を見せて、俺を襲うはずだ。


 要するに、俺を餌に犯人を釣り上げる、という作戦だ。


 かなり危険は高い。

 宮ノ下にも反対された。


 でも……


 先日、宮ノ下の怯えた顔を見ていたら。

 涙をにじませている姿を見たら、どうにもこうにも我慢できなくなった。

 犯人に対する怒りが強くなった。


 これ以上、長引かせたくない。

 そしてなによりも、一発、殴ってやりたい。


 ということで、やや強引に作戦を決行することにしたのだ。


「結城さん」


 ふと、宮ノ下が真面目な表情で尋ねてくる。


「危険なことは……ないんですよね? 完璧な罠を用意したんですよね?」

「ああ、ないよ。大丈夫だ」


 嘘だ。


 完璧な罠なんてない。

 もちろん、十分な策を考えてきたが……

 何事にも予想外のトラブルはつきものだ。

 下手をしたら怪我を……それ以上の事態になる可能性もある。


 でも、そんな不安は表に出さず、俺はしっかりと頷いてみせた。


「そうですか……そうですよね。うん。結城さんを信じていますからね?」

「ああ、任せてくれ」

「それともう一つ」


 宮ノ下は、再び真面目な顔をして言う。


「一緒にお風呂に入りませんか?」

「入らない」


 真面目な顔をしてなんてことを言うんだ、こいつは。


「ごほーし、しますよ? ローションとか、マットプレイとかもオッケーですよ?」

「どこでそんな言葉を覚えた」

「なら、一緒に寝ましょう? 女子小学生の温もりに浸るチャンスですよ?」

「ダメ、いらない」

「ぶー」


 宮ノ下は唇を尖らせた。


 俺は、けっこう緊張しているのだけど……

 彼女は落ち着いているみたいだ。


 いざという時、女性は強いな。

 やれやれ、と苦笑するのだった。

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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