28話 二人の朝
「……んぅ……」
カーテンの隙間からこぼれる朝日で目が覚めた。
体を起こして、目元をこする。
それから、ぐぐっと体を伸ばした。
「んーっ……ふぅ、朝か」
ベッドを見ると、宮ノ下の姿はない。
先に起きたみたいだ。
「俺のことも起こしてくれてよかったのに」
まだちょっと眠いな。
あくびをこぼしつつ宮ノ下の部屋を出て、本来、俺が使う予定だった部屋へ。
そこで私服に着替えて、一階のリビングに降りた。
「おはよう」
「あっ、おはようございます♪」
宮ノ下は朝食の準備をしていた。
フリルのついた可愛らしいエプロンを身に着けて、キッチンを忙しなく動き回っている。
「手伝うよ」
「いえいえ、結城さんはのんびりしててください。朝食を作るのは妻の役目なので」
「妻じゃないから」
「妻候補、ということですね♪」
「めげないな、お前……」
小学生とは思えない、鋼のメンタルだ。
いったい、どこでどうやって鍛えられたのだろう?
「そういえば、結城さんは、朝はお米派ですか? それともパン?」
「んー……強いて言うならパン?」
「奇遇ですね、私もパンです! 私達、気が合いますね。これはもう、結婚するしかないかと♪」
「だからできないって」
「そこをなんとか」
「なんともならない」
「さきっちょだけでも」
「意味がわからん」
あと、女子小学生がそんなことを口にするな。
「残念です。あ、ご飯、ちょうどできました。食べましょう?」
「ありがとう」
宮ノ下とテーブルを囲む。
シンプルにバターを塗っただけのトースト。
スクランブルエッグ。
サラダ。
ヨーグルトとバナナ。
シンプルな献立だけど、朝だから、これくらいでちょうどいい。
「「いただきます」」
サクサクのトーストとジャムの相性は抜群だ。
多すぎない? ってくらいたっぷり塗って、一口で食べる。
うん、美味しい。
「……」
気がつけば、宮ノ下がほくほくとした様子でこちらを見ていた。
「どうしたんだ?」
「結城さんと一緒に迎えた朝……一緒に食べる朝ご飯……えへへ、幸せです♪」
「安い幸せだなあ」
「お得でしょう? 買いませんか」
「言葉がやばい」
女子小学生を買う、なんて台詞、危なすぎる。
「でも……」
宮ノ下がにっこりと笑う。
「いつも一人なので、結城さんと一緒で、すごく嬉しいです」
「……そっか」
宮ノ下の両親は、夜、遅いだけじゃなくて朝も早いのか。
一人でご飯の準備をして。
食べて。
片付けをする。
その光景を想像したら、なんともいえない気持ちになる。
「……今日は」
「?」
「今日は、朝は一緒にいるから……まあ、なんていうか、のんびり食べようか」
「あ……はい♪」
宮ノ下の笑顔がさらに深くなり、明るい雰囲気も増したような気がした。
やっぱり、笑顔が一番だな。
笑顔がよく似合う子で……
そして、誰よりも笑っていてほしい、って思う。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
朝食を終えて、一緒に後片付けをした。
今日は平日。
いつものように学校はあるのだけど……
「宮ノ下は、どうする? いつまでも、っていうわけにはいかないけど、今日くらいは様子見として休んでもいいと思うけど」
「それは……」
宮ノ下は軽くうつむいて、言葉を止めた。
宮ノ下の性格を考えると、学校は休みたくないのだろう。
勉強はともかくとして、友達と会いたいはずだ。
でも、ストーカーは怖い。
なにをしてくるかわからない。
今日が安全という保証はない。
「えっと……結城さんが学校まで来てくれる、というのは?」
「さすがに無理だろ。俺が不審者として捕まるよ」
「尊い犠牲でした……」
「決定事項!?」
「あはは、冗談ですよ……半分くらい」
「あのな……」
少し考えて、ため息をこぼす。
「……学校の手前までなら送るよ」
「え、いいんですか?」
「いいよ」
「でも、そうなると、結城さんは、けっこう遠回りをしてしまうのでは……?」
「するけど、でも、宮ノ下の方が心配だ。遠回りくらいで安全を買えるのなら、迷うことなく買うさ」
「……」
宮ノ下が、ぽかーんとなる。
「どうしたんだ?」
「……もうっ、もうもうもう! 結城さんは、かっこよすぎますよ!」
頬が赤い。
照れていたみたいだ。
「さすが、私の旦那様です♪」
「違うから」
「照れ屋なところも素敵ですよ」
「人の話を聞かないところは、宮ノ下の大きな欠点だな……」
思わず、疲れの意味のため息をこぼしてしまう。
でも……
よかった。
昨日に比べたら、だいぶ元気になったみたいだ。
この勢いが続けばいいんだけど……さて、事態はどう動く?
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