27話 一人じゃない夜
「……お風呂、あがりました」
「……そっか」
ややあって、宮ノ下がリビングにやってきた。
ほかほか姿。
猫の着ぐるみのような可愛いパジャマを着ている。
本来なら、可愛いなそれ、とでも褒めたいのだけど……
でも今は、とてもじゃないけどそんな空気じゃない。
「……」
「……」
わざとじゃない。
でも、宮ノ下の風呂場に乱入して……
あぁ……俺は、本当になにをやっているんだ?
ストーカーよりも俺が脅威じゃないか。
「宮ノ下!」
「は、はい……!?」
「ごめん!」
土下座。
額を床に擦りつけて、どこまで頭を低くできるか、というチャレンジに挑戦するかのように、必死の土下座を見せた。
「本当にごめんっ! こんなことを言っても信じられないかもしれないけど、悪気はなかったんだ! あんなことを言った後で悲鳴がしたから、本当になにかあったんじゃないか、って……って、ダメだ。言い訳をしている場合じゃない。とにかく、ごめん!!!」
「えっと……」
宮ノ下の困惑するような声。
怒っている?
怒っていない?
顔が見えないから、声だけで判断することができない。
「顔を上げてください」
「えっと……」
言われるまま顔を上げると、宮ノ下は苦笑していた。
ただ、頬は赤い。
さっきのこと、意識せずにはいられないのだろう。
それは俺も同じで……
今すぐに切腹してしまいたくなるくらい、申しわけない気持ちになる。
「私、怒っていませんよ?」
「え? でも……」
「その……恥ずかしかったですけど。ものすごーーーく、恥ずかしかったですけど。ただ、まあ……結城さんになら、と」
「そ、それは……」
「いつか、全部、見せ合う仲ですし!」
「見せるか!」
「ふふ。いつもの調子に戻ってきましたね」
「あ……」
思わず頭を抱えそうになってしまう。
さっきのこと、宮ノ下が気にしていないわけがない。
怒っていないにしても、恥ずかしいだろうし、なかったことにしたいはず。
それでも、俺のことを気遣ってくれた。
これ以上、俺が自分を責めないようにしてくれた。
ダメだ……
本当に敵わない。
今は、俺の方が年下みたいだ。
「わかった。ただ、もう一度だけ……本当にごめん」
「はい、謝罪を受けました。許しますよ」
「ありがとう」
「あ……でも、そうですね。これで終わらせてしまうのはもったいないので」
「おい、もったいないってなんだ?」
「ふふ。結城さんには、せっかくなので罰を受けてもらいます」
宮ノ下は、ニヤリと不敵に笑うのだった。
――――――――――
「……これが罰なのか?」
「はい♪」
宮ノ下の部屋。
宮ノ下はベッドに寝て、俺は床に布団を敷いて寝ている。
罰として、一緒に寝るように言われたのだけど……
さすがに同じベッドは色々とまずい。
同じ部屋ということで妥協してもらい、今に至るわけだ。
「結城さん」
「うん?」
「なんだか、わくわくしますね! これが噂の修学旅行でしょうか!?」
「そういえば、宮ノ下は修学旅行はまだか」
学校によって差はあるだろうけど、大体、小学生の修学旅行は六年生だ。
宮ノ下は、あとニ年足りない。
「恋バナしましょう! 恋バナ!」
「……宮ノ下の好きな人は?」
「結城さんです!」
「はい、終わり」
「一言で終わった!?」
「そういうのは同性の友達とするから楽しいんじゃないか? 二年後までとっておいた方がいいよ」
「それもそうかもしれません……じゃあ、なんでもいいからおしゃべりをしましょう! 私、ものすごくわくわくして、このまま眠れそうにありません!」
「まあ、いいけど」
それから、なんてことない雑談をした。
日常の話。
ゲームの話。
学校の話。
話題が尽きることはなくて、気がつけば2時間が経っていた。
いつものノリというか。
ゲームで一緒に遊んでいる時の感覚というか。
宮ノ下と一緒に過ごす時間は心地よくて、楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。
「そろそろ寝るか」
「まだ……まだぁ、お話……したい、れすぅ……」
「めっちゃ眠そうじゃないか」
「そんなこと……ない、れすよぉ……?」
放っておいても10分くらいで寝てしまいそうだ。
色々あったから、今日はゆっくり休んでほしい。
「ほら、寝よう。明かりを消すぞ」
「はぃ……」
部屋が暗闇に包まれた。
「……結城さん」
「うん?」
「今日はぁ……ありがとう、ごじゃいまふ……」
「いいよ、友達だろう?」
「できれば、恋人にぃ……」
「それは、またいつか」
「むぅ……つれない、ですぅ……ふみゃ」
そろそろ限界のようだ。
宮ノ下は、もう、半分くらい寝ているっぽい。
「結城……しゃぁん……」
「うん?」
「……一人じゃない、夜は……温かい、ですねぇ……」
「そうだな。俺は、ここにいるよ。だから……おやすみ」
「おやすみ……なしゃい……」
ほどなくして、すぅすぅという寝息が聞こえてきた。
暗い部屋。
静寂に包まれた中、宮ノ下の寝息だけが小さく響く。
それは、どこか心地よさを感じるもので……
こういう静けさもいいな、って思うのだった。
「おやすみ、宮ノ下」
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