26話 扉越しに
夕飯はハンバーグと大根のサラダだ。
宮ノ下がハンバーグを担当して、俺はサラダを作った。
どちらも会心の出来で、美味しい美味しいと何度言ったことか。
……宮ノ下と一緒だから、いつも以上に美味しく感じられるのかもしれないな。
ふと、そんなことを思う。
「結城さん。お風呂を入れておいたので、お先にどうぞ」
「いつの間に……ってか、家主より先にいただくわけにはいかないだろ」
「結城さんって、妙なところで価値観が古いですよね。そんなの気にしませんよ? それとも……にひひ、女子小学生が入った後のお風呂を堪能したいですか?」
「帰るか」
「あああああぁ、嘘です冗談ですぅ!? ちょっと好きな人をからかいたい年頃なんですぅ!?」
「まったく」
反応に困る冗談はやめてほしい。
あと……
できれば、ぽんぽんと好きというのも止めてほしい。
正直……照れる。
「でも、着替えがないからな……1日ぐらい我慢するしか」
「1日でもお風呂に入らないのは、ちょっと……」
演技ではなくて、宮ノ下は心底嫌そうな顔をした。
俺がズボラなのか?
ぐさり、となにかが胸に刺さる。
「着替えなら、パパのものを用意しておきました。ちょっと大きいかもですけど、そこは我慢してもらえたら」
「いいのか?」
「はい。パパに文句を言う権利なんてありませんから」
宮ノ下の父さんは、いったい、どういう扱いを受けているんだ……?
「じゃあ、先にいただこうかな」
「はい、どうぞ」
というわけで、俺は先に風呂に入った。
――――――――――
「ふぅ……今、上がったよ」
「えっと……パパの寝巻き、ちょうどいいみたいですね」
「ああ。ちょっと大きいけど、これくらいなら問題ないよ」
「結城さんがパパの寝巻きを着ている……なら、結城パパ、って呼ぶべきですかね?」
「変な想像するから止めろ」
たまに……ではなくて、ちょくちょく、宮ノ下の発想っておかしくなるんだよな。
宮ノ下流に言うのなら、愛故の暴走……ってところか?
……自分で考えておいてなんだけど、ものすごく嫌な暴走だな、それ。
「じゃあ、次は私がお風呂に入ってきますね。結城さん成分がたっぷりと滲み出たお風呂……ふ、ふふふ♪」
「まさか、それを狙って……?」
「さあ、どうでしょう?」
「ほどほどにしてくれよ……」
「嫌です♪ 結城さん相手には、いつでもどこでも全力全開なのですよ。ふふ」
恋する乙女は無敵と言うが……
本当、その通りだな。
「では、また後で。あ、覗きたかったら覗いても大丈夫ですよ?」
「するか!」
「ざーんねん。結城さんのために、色々とサービスしようと思っていたんですけどね」
もはや小学生の発想じゃない。
本当に小学生だろうか?
実は転生者とか、そういうオチだったりしないだろうか?
ついつい真面目にそんなことを考えてしまう。
「ではでは」
宮ノ下はウインクを残してリビングを後にした。
「はぁ、なんか変なことになったな。宮ノ下も、もうちょっと警戒心を強くしてほしいというか……好意を持った相手でも、家に招いて泊めるとか」
それだけ信頼されている証なのだろう。
……まあ、手を出してくることを望んでいる可能性もあるが。
「……結城さーん」
ん?
浴室の方から宮ノ下の声が聞こえてきた。
まさか、家の中にストーカーが……
って、さすがにそれはないか。
だとしたら悲鳴をあげているだろう。
何事だろうと不思議に思いつつ、リビングを出て、浴室前の扉に移動した。
「どうかした?」
「シャンプーが切れちゃってて……代わりを取ってくれませんか?」
「あれ、切れていたっけ?」
「私専用のがあるんですけど、それ、ほとんど残っていないんです」
「わかった。それを取り出せば……扉を開けたら脱衣所にいるとか、そういうオチはないよな?」
「あ」
それは忘れてた、というような声が聞こえてきた。
「シャンプーなしでがんばれ」
「あー、しませんしません。しませんから、お願いしますー」
「まったく……」
呆れつつ脱衣所に入る。
宮ノ下が指定するシャンプーを棚から取り出して、浴室前の扉に置いた。
「ここに置いたから」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ……」
「あ、ちょっと待ってくれませんか?」
足を止める。
「どうかした?」
「その……ありがとうございます。私のわがままを聞いてくれて」
「いいよ。宮ノ下は、その……大事な友達だから」
「……」
「できる限りのことはしたいって、そう思うんだ」
「……」
「宮ノ下?」
「はっ!? 結城さんがあまりにも素敵なことを言うものだから、ちょっと魂が抜けていました!」
「風呂で溺れないでくれよ」
「その時は、私を救助して、人工呼吸をしてくれますか♪」
「デスソースを流し込めば起きるかな」
「ショックで死んでしまいます!? そんなことをしたらひゃあ!?」
がたーんっ! という大きな音。
「宮ノ下!?」
俺は慌てて浴室の扉を開けて……
「あ」
「あ」
石鹸で足を滑らせたらしく、宮ノ下がコケていた。
タオルでかろうじて体は隠れているものの、でも、ほぼほぼ裸に近い状態で……
「ぴっ……ぴゃああああああああああ!?」
「ご、ごめんっ!!!?」
俺は慌ててリビングまで戻り……
それから、ガンガンと柱に頭をぶつけるのだった。
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