24話 プロポーズ
いつものように、私は『ファンネク』で遊んでいた。
もちろん、ヒロも一緒だ。
今日はクランハウスのコーディネートをしていた。
お金を出して、自分の家を買う。
そして、自由自在に家具を飾り付けることができる。
この家は、私とヒロがお金を出し合い買ったものだ。
「そろそろ模様替え、とは思っていたけど……」
「やりだすと、止まらなくなっちゃうね。これ、今日中に終わるかな?」
気軽に始めた模様替え。
でも、気がつけばリアル時間で夕方になっていた。
あっという間に時間が過ぎている。
ヒロと一緒だと、いつもこうなんだよね。
一緒に過ごす時間が楽しすぎて、あっという間に過ぎてしまう。
嬉しいけど、でも、ちょっと寂しくて……
別れの時は、毎回、切なくなってしまう。
……だから。
私は今日、とある計画を立てていた。
「……ねえ、ヒロ」
「んー?」
私はなんてことないように、いつもの軽いノリで言う。
「結婚しようか?」
「んー……えっ、はい!?」
さすがに聞き流すことはできなかったらしく、ヒロは家具を動かす手を止めて、慌てた様子でこちらを見た。
「この前、パートナーシステムが導入されたでしょ?」
「あ、ああ……いわゆる、ゲーム内の結婚だよな」
「うんうん。それ、やってみない?」
「やってみない、って……」
ゲームだからヒロの細かい表情はわからない。
でも、とても困惑しているのが見てとれた。
そして私は……
(ヤバイヤバイヤバイ、めちゃくちゃヤバい! 私の心臓、なんかもう、こう、どうにかなっちゃいそう!? 壊れないでね!? 壊れないでね!?)
ものすごくドキドキして、慌てて、混乱しそうになっていた。
自分で言い出したこと。
気軽に言い出したこと。
でも……
私は本気だ。
本気のプロポーズをしていた。
たかがゲームの結婚。
されど、ゲームの結婚。
ネットで繋がっているとはいえ、相手の姿は見えず、顔を突き合わせているわけじゃない。
いわば、心と心の付き合い。
だからこそ、私は、ゲーム内の結婚をとても重要なものと考えていた。
心と心の付き合いだからこそ、そこから生まれる関係というものは『本物』なのだ。
ゲーム内で結婚をすることは、現実でするのと同じくらい重い意味を持つ……と考えている。
つまり……
私は、ヒロのことが好きなのだ。
大好きなのだ。
愛している。
初恋は実らない、とか。
小学生の恋は遊び、とか。
そういう話をよく聞くけど、そんなことは知らない。
どうでもいい。
私は、ヒロが好き。
ゲームだけじゃなくて、リアルでも結婚したいくらい、本気で好き。
愛している。
だから……
その証が欲しいと思った。
ゲームだけど、ずっと一緒にいたいと思った。
それくらい好きだ。
もう、どうしようもないくらいに惚れているのだ。
「どう? 結婚してみない?」
リアルの私は、頬がとても熱い。
心臓がバクバクして、破裂してしまいそう。
でも、そんなことは表に欠片も出さず、あくまでも気楽に誘う。
だって、ほら。
本気で結婚をしたいなんて……
そんなことを口にするなんて……
……恥ずかしいですよ。
あぅ。
想像しただけで、もう、おかしくなってしまいそう。
顔が熱い。
胸がドキドキする。
私……
やっぱり、彼に本気で恋をしている。
愛しているよ。
「どう……かな?」
「んー……それって、俺のことが……好き、だからとか?」
「ヒロのことは……うん、好きかな?」
「なんで疑問形……?」
「よくわからなくて」
嘘です。
ものすごくわかります。
たまらないくらい大好きです。
「でも、一番、気が合う友達っていうのは間違いないよ。だから、えっと……どうかな、って」
「まあ、俺も、アイリスが一番気が合う、って思っているけど……」
やばいです。
その言葉で、ちょっと気絶してしまいそうになるくらい嬉しいです。
「だからって、結婚までする? というか、アイリスはいいの?」
「いいよ。ヒロとなら……してもいいかな、って。えへ♪」
「……」
その沈黙はなに?
照れているの!?
そんな可愛い姿を見せられたら、私も照れちゃうよ!?
「それに、えっと……ほら、システムを活用すれば、特典アイテムがもらえるから!」
「あー、そういえば」
「だから、なんていうか……今、やることもないし、してもいいかなー……なんて思ったんだけど。その……ヒロは、どうかな?」
マジやばです。
心臓が痛いくらいに緊張しています。
ヒロは、いったいどんな返事を……
「いいよ」
「……ぁ……」
一瞬、頭が真っ白になった。
「せっかくだから、結婚、してみようか」
「い、いいの……?」
「うん。しても困るものじゃないし……まあ、なんていうか。それをきっかけに、もっとアイリスと仲良くなれるかもしれないじゃない?」
「……」
くううう……!
ヒロは私を殺すつもりですか!?
今の台詞、すさまじい破壊力ですよ!
萌え死にするかと思いましたよ!?
「じゃあ……」
「え?」
ヒロは私の前に移動して、ひざまづくポーズを取る。
それから、こちらに手を差し出してきた。
「アイリス、俺と結婚してくれませんか?」
「……」
「アイリス?」
「……」
「え……まさか、このタイミングで寝落ち? 回線落ち?」
「あっ……いますいます! ちゃんと聞いています!」
あまりに嬉しくて。
本当に嬉しくて。
一瞬、意識が飛んでしまっていた。
「その、えっと……」
「うん」
「……ふつつかなものですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
……こうして、私とヒロは、ゲーム内ではあるものの結婚することになった。
でも、私にとっては現実で結婚するのと同じくらい大事なイベントで……
それくらいに強烈な思い出で……
にじむ涙でモニターが見えなくなったのは、内緒だ。
(大好きですよ、ヒロ)
本心はチャットにできず。
私は、心の中で彼に対する愛をささやいた。
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