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23話 出会い

 結城さんと……ヒロと出会ったのは、大体、1年前だ。


 その頃の私は、当たり前のようにヒマだった。

 退屈で、退屈で、退屈で……

 なにもすることがなくて、そのまま干からびてしまいそうだった。


 そんな時、たまたま見かけたオンラインゲームのCM。


 遊んでみようかな? と思ったのは、心底ヒマで、他にやることがなかったから。

 そうして私こと、アイリスは『ファンネク』の世界に降り立った。


 剣と魔法の世界。

 どこまでも続く広大な大地。

 果てのない空。

 深い海。


 ゲームとは思えないほどリアルで。

 そして、たくさんの人が『冒険』をしていた。


 わくわくした。

 ここでなら退屈を解消できるかもしれない。

 心を満たしてくれるかもしれない。


 そして、私は『ファンネク』を始めて……

 開始1時間で挫折しそうになった。


 このゲーム、チュートリアルがわかりづらい。

 丁寧に説明してくれるんだけど、ただ、それは特別なクエストを受注しないといけない。

 それなのに、そこに至るハッキリとした導線が記されていない。


 おかげで私は、チュートリアルを受けることなくフィールドに出て……

 操作方法がろくにわからず、敵にボコボコにされてしまう。


 この繰り返し。


 心が折れてもしかたないよね?


「……はぁ、もう止めますか」


 そうやって諦めかけた時、


「それ、ちゃんと技を使わないと、戦闘は厳しいですよ?」


 そんな風に声をかけてくる人がいた。


 耳と尻尾の生えた、イケメンというよりはワイルドな感じのする獣人。

 『ファンネク』には色々な種族があり、自分好みのキャラクターをカスタマイズできるのだ。


「え? ……技?」

「やっぱり知らないんですね。さっきから見ていたら、ずっとオートアタックだけだったので……すみません。つい気になって、声をかけてしまいました」

「いえいえ、大丈夫です。それよりも……」


 なんだか親切そうな人だ。


 この人が言うには、正しい戦い方があるらしい。

 聞いたら教えてくれるだろうか?

 でも、図々しいって思われないかな?


「よかったら、戦い方とか教えましょうか?」

「いいんですか?」

「はい。今日のノルマ終わって、ちょうどヒマしていたんで」


 ノルマ?

 ゲームなのにノルマがあるの?


「えっと……じゃあ、お願いします」

「了解です。あ、俺、ヒロっていいます」

「私は、アイリスです」


 ……これが、アイリスとヒロの出会いだった。




――――――――――




 いつものように、学校から帰ったら『ファンネク』を起動した。


 ちょっとした暇つぶしのつもりだったのだけど……

 今では、すっかりハマってしまった。


「あ、ヒロだ」


 『ヒロがログインしました』という、オートチャットが流れた。

 ヒロとクランを組んでいるため、ログインした時は知らせてくれるのだ。


「やっほー、ヒロ♪」

「おいっす」


 ヒロと出会い、数ヶ月。

 かなり気さくな付き合いをしている。


「今日も早いね」

「アイリスこそ」

「なにする?」

「まずは武具の素材集め。って、今週分は溜まっていたか」

「んー……なら、エンドコンテンツでも行く?」

「行ってみたい気持ちはあるけど……ちょっと早くないか? 装備は整っていないし、俺達、スキル回しもまだまだだから」

「だよねー……でも、いつか行ってみたいね! で、ヒロと一緒にクリアーしたい!」

「だな」

「じゃあ、今日は、代わりに釣りしようか」

「カジノは?」

「……私、スロットで大負けして」

「おおぅ……俺のメダル、分けようか?」

「情けはいらぬでござる!」

「なんだ、その口調」

「というわけで、釣りに決定!」

「強引だなあ。ま、いいけど」

「ありがと♪」


 私は、かなりわがままな気がする。

 自分のやりたいことを押し通して。

 ヒロの言うことも一応聞くものの、大抵は却下。


 うーん、ひどい。


 でも、ヒロはいつも笑って付き合ってくれた。

 仕方ないなあ、なんて言いつつも、一緒に楽しんでくれた。


 ヒロが隣にいる。

 一緒にいてくれる。


 いつも私が抱えていた孤独感は、いつの間にか消えていた。


「んー……」


 川で釣り糸を垂らしつつ、ヒロを見る。


 狼に似た耳と尻尾。

 ワイルド路線で作られた顔。

 イケメンと言えばイケメン。


 ただ……


 あくまでも、これはゲームの世界。

 リアルとは違う。

 現実のヒロは、いったい、どんな顔をしているんだろう?


 たぶん、私と同じ学生だと思うんだよね。

 こうして遊ぶ時間帯が一緒だし……

 たまに、1週間くらい消える。

 テスト期間なんだと思う。

 そう考えると、中学生か高校生かな?


 大学生は違うと思う。

 大学生だとしたら、もっと時間に自由だろう。


 ヒロは、他にどんな趣味を持っているんだろう?

 好きな食べ物は?

 それを私が作ったら、喜んでくれるかな?

 現実のヒロは、どんな風に笑うんだろう?

 ゲームと変わらない?

 それとも、意外な一面を見せてくれる?


「アイリス?」

「……」

「おーい、アイリス? 寝落ちか?」

「え? あ、うん。なになに?」


 ヒロのことばかり考えていて、ついついチャットを見逃していた。


「すごい獲物が釣れた」

「え、どれどれ、見せて!」

「ほら……長靴」

「……ぷっ、あははははは! ネタアイテムじゃん。そんなものを本当に釣り上げるなんて、逆にレアだよ! レア!」

「だよなー。これ、家の水槽で泳がせてもいい?」

「長靴を水槽に入れるとかシュールすぎるんだけど。ダメ、お腹痛い」


 私は画面の前で大爆笑した。


 いつもこんな感じだ。

 ヒロと一緒にいると、私は笑顔でいられる。

 とても楽しい時間を過ごすことができる。


 ヒロは……どうなのかな?


 いつも一緒にいてくれるけど、楽しいと思ってくれているのかな?

 画面の向こうでは、笑顔でいてくれているのかな?


 だとしたら……嬉しいな。


「ねえ、ヒロ」

「うん?」

「……やっぱりなんでもない♪」


 いつもありがとう。

 それと……好きだよ。


 私は、あなたに恋をしています。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインかーわーいーいー MMORPGの話を見てて時々思うのが読者も昔にネトゲーにハマって楽しんでいましたが、1番ハマった理由がシステムとかキャラとかじゃなくて人との会話や交流でそんな人…
[良い点] 抱いていた感情にまつわる回想が良いです。
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