19話 逢引みたいな?
放課後。
少し早足で『アマリリス』へ向かう。
店内に入ると、奥の席で宮ノ下がジュースを飲んでいるのが見えた。
よかった。
なにもなかったみたいだ。
今日から、放課後は合流して過ごすように。
いきなりなにかあるはずがない。
でも、完全に安心することはできなくて、ちょっと落ち着かなかった。
だけど、宮ノ下の姿を見て、ようやく落ち着くことができた。
ほっと吐息をこぼす。
「宮ノ下」
「待っていましたよ、結城さん」
にっこりと笑う。
一緒にいられることが嬉しいのか。
それとも、安堵からなのか。
たぶん、両方かもしれない。
「結城さん、結城さん、これからどこに行きましょうか? 私のオススメは、最初に『ラ』のつくホテルですよ」
「ごほっ!?」
突然の不意打ちに咳き込んでしまう。
今の話、他の客に聞かれていないよな……?
「ふふ、冗談ですよ」
「お、お前な……」
「半分本気ですけどね」
「あのな……」
「行きます?」
「行かない」
先日、ストーカーに怯えて子猫のように震えていた姿はどこへやら。
いつもの小悪魔を取り戻していた。
……いや。
たぶん、強がりなんだろうな。
あまり怯えていたら俺に心配をかけてしまう。
だから、こうしていつも通りに振る舞っている。
「どうしたんですか? じっと私の顔を見て」
「あ、いや……」
「ははーん。さては、見惚れていましたね? いつ付き合いますか? 告白は、いつでもいいですよ♪ へいへい、カモーン! ばっちこーい!」
……やっぱり、宮ノ下は特になにも考えていないのかもしれない。
「寄り道なんてしないからな。すぐ家に帰ろう」
「えー」
「こんな状況だから、遅くなる前に帰った方がいいだろう?」
「それはそうですけど……むー、せっかく結城さんと一緒なのに」
宮ノ下は唇を尖らせる。
確か、鍵っ子と言っていた。
家に帰ってもやることがないから、だから、余計に俺と一緒にいたいのだろう。
この時間なら友達を誘うこともできるだろうが……
ストーカーがいるかもしれないと考えると、それもできないのだろう。
「遊びたい、っていう気持ちはわからないでもないけど……今からどこかに行けば、絶対に遅くなるだろ? それはやめておくべきだ」
「そうですよね……はい、わかりました」
宮ノ下は物分りがいい。
小学生とは思えないくらいに。
だからこそ、我慢させてしまっているんだな、とわかる。
矛盾しているけど……
子供なんだから、もっとわがままを言ってもいいのに、と思う。
でも、育った環境と現在の状況がそうさせないのだろう。
宮ノ下は頭がいいから、尚更に。
「……次の土曜なら、バイトもないからいいよ」
「え?」
「どこか行きたい、というか、遊びたいんだろう? 土曜でいいなら付き合うよ。それとも、やめておく?」
「とんでもない!」
宮ノ下はものすごい勢いで首を横に振る。
そして、瞳をキラキラと輝かせた。
「土曜日ですね!? わかりました! 絶対に予定を空けておきます!」
「了解」
「なにがなんでも空けておきますね! 友達に誘われても、その日は彼氏とデートだから、って断りますね!」
「それは止めろ」
やっぱり、宮ノ下は笑顔の方がいいな。
恋愛的なものではなくて。
俺は、この子の笑顔が好きなんだと思う。
明るくて。
キラキラと輝いていて。
まるで、真夏に咲く向日葵のようだ。
そこにいるだけで周囲を明るくして、温かい気持ちにさせてくれる。
ほんと、俺にはもったいないくらいのいい子だ。
……だからこそ、絶対に守らないと。
「じゃあ、土曜日の予定を今、考えませんか? それくらいはいいですよね」
「まあ、それくらいなら」
「決まりですね! 店員さん、オレンジジュース、もう一つお願いします。結城さんはなににしますか?」
「アイスティーで」
「アイスティーもお願いします! あ、ストローはカップル用のヤツを!」
「いらん」
「なぜ……? ありえなくないですか……」
「そんな絶望的な顔をされても」
宮ノ下の本気具合がよくわからない。
「先輩、今のオーダー、普通でお願いしますね」
「はいはい、了解。ふふ、仲が良いわね」
先輩がにこにこ笑顔でオーダーを取る。
やけに優しい顔で、なにか誤解をしているようだけど……
まあ、いいや。
訂正するのも面倒なので、そのままにしておいた。
俺にとって、宮ノ下は大事な友達。
そして、ネットゲームで一緒に激戦を潜り抜けてきた相棒。
今はそれだけでいい。
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