17話 不審者
結局、宮ノ下は俺のバイト終わりまで店に居座った。
「あら偶然ですね」
なんて店の外で待ち構えられていた時は、呆れるを通り越して笑ったものだ。
そして、彼女と一緒に帰路を辿る。
最近、こんな時間が多いせいか、宮ノ下と一緒にいることに違和感を覚えなくなってきた。
隣にいるのが当たり前というか……
むしろ、一緒でないと落ち着かないくらいだ。
「ふっふっふ」
ふと、宮ノ下が不敵に笑う。
「結城さんの調教は順調に進んでいるようですね」
「小学生が調教とか言うな」
「最近の結城さんは、私が一緒にいることにすっかり慣れた様子。以前は、ちょっと周囲の目を気にしていたのに」
「それは……」
「この調子でいけば、そのままランクアップ。恋人になれますね♪」
「それはない」
「いけずです……」
しょぼんとなる宮ノ下。
でも、途中までは見事に言い当てていたから恐ろしい。
「そういえば、先輩さん、いい人ですね」
「そうか? いや、いい人なのは否定しないけど、あの人、ちょくちょくからかってくるんだよな。宮ノ下も見ただろう?」
「愛されている証拠ですよ」
「嫌な愛され方だな……」
「でも、私が正妻ですからね?」
「なんの話だ」
「側室を認めるのが女の度量ですが、とはいえ、三人までにしてくださいね?」
「だからなんの話だ」
どうでもいい話をしつつ、帰路を歩いていく。
宮ノ下と過ごす時間は楽しいというか落ち着くというか……
ほんと、気軽に過ごすことができるんだよな。
この関係、時間はいつまで続くのだろう?
ふと、そんな疑問を抱いた。
「……っ……」
突然、宮ノ下が足を止めて後ろを見る。
つられて俺も振り返るが、特になにもない。
「どうしたんだ?」
「えっと……」
「なにか言いにくいこと?」
「その、信じてもらえるかどうか……」
「信じるよ」
「即答……なんですね」
「当たり前だろ」
なんでも、というわけにはいかないけど……
でも、宮ノ下はつまらないことは言わないはずだ。
「宮ノ下は冗談はよく口にするけど、つまらない嘘は吐かないからな」
「……ありがとうございます」
いつもならここで冗談が返ってくるのだけど、それがない。
……けっこう真面目な話だな。
気を引き締める。
「その……ここ最近、視線を感じるんです」
「視線?」
「見られているんです。なんていうか、こう……ねっとりとしてて、絡みついてくるみたいで……ずっとじゃないんですけど、外に出た時とかに……今は、その視線があって、つけられているような感じがしました」
「それ……もしかして、ストーカーか?」
「わかりません……」
「ふむ」
調子に乗るから本人の前では言わないが、宮ノ下は可愛い。
テレビに出演する子役か、それ以上の容姿を持っていると思う。
性格は小悪魔であるが……
まあ、遠目から見る分にはそれはわからない。
もしかしたら、それがいいというヤツもいるかもしれない。
彼女に妙な輩がつきまとう可能性は十分にある。
「ストーカーされていると仮定して、犯人に心当たりは?」
「……わかりません。まだ確証もない状態なので……」
「そっか、そうだよな」
どんなヤツか知らないが、小学生にストーカーするなんて、とんだ変態ロリコン野郎だ。
……いや、待て。
この場合、俺も変態ロリコン野郎になるのか?
「どうしたんですか、結城さん。いきなり落ち込んだりして?」
「いや、なんでもない……」
自爆してしまった。
ま、まあ……
俺は告白されただけで、妙な感情は持っていない。
変態ロリコン野郎ではない……はず。
「具体的にいつ頃から、っていうのはわかる?」
「えっと……ここ最近だと思います。何日から、っていう具体的なのはちょっと……」
「ここ最近で、なにか変わったことは?」
「特にないと……あ、結城さんとオフ会したことくらいでしょうか」
ってことは、犯人は俺に触発されて動き出した?
今までは、密かに宮ノ下を見守るだけ。
でも男の影が現れたことで我慢できなくなり、後を付け回すように……
ありえるな。
「ひとまず、今日は家まで送るよ。それと、今後はなるべく一人にならないこと。一人になりそうな時は俺を呼んでくれていいから」
「いいんですか……?」
「いいよ、友達だろ?」
「……ありがとうございます」
とはいえ、これは後手の対処にすぎない。
犯人がさらに過激な行動に出たら、宮ノ下を守ることができないかもしれない。
そもそも解決に繋がる行動ではない。
警察に相談するか?
でも、犯人もなにもわからない状態だ。
せいぜい、巡回を強化してくれるくらいだろう。
だとしたら……
「結城さん」
「うん?」
「えっと……手を繋いでもいいですか?」
「いいよ、ほら」
「ありがとうございます」
繋いだ手の平は温かい。
宮ノ下は嬉しそうに笑った。
本格的な対応は、今はまだ思い浮かばない。
ただ今は一緒にいよう。
「結城さんの手、温かいですね」
「宮ノ下もな」
「手が冷たい人は心が温かい、っていいますよね」
「なら、俺達は心が冷たいのか?」
「かもしれないですね。でも、結城さんとおそろいだから嬉しいです」
「そっか」
少し落ち着くことができたのか、宮ノ下の表情が柔らかくなった。
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