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16話 誤解と嫉妬

 アルバイト中。


「先輩、この前はありがとうございました」


 ちょうど同じタイミングで先輩と一緒に休憩に入ったので、あらかじめ買っておいたクッキーを差し出した。


「あら、これは?」

「この前、色々と相談に乗ってもらったじゃないですか」

「小学生ちゃんのプレゼントに連れて行くお店のこと?」

「はい。そのお礼です」

「気にしなくてもいいのに。マスターには?」

「もちろん、お礼をしておきましたよ」


 マスターにはコーヒーセットを渡しておいた。

 マスターはコーヒー好きなので、とても静かな表情をしていたけれど、喜んでいたように見えた。


「まあ、断るのもあれだからもらっておくわね。ありがとう」

「お礼を言うのはこちらですよ」

「小学生ちゃんとのデート、うまくいった?」

「誕生日を祝うためなので、デートじゃないんですけど……まあいいや。はい、喜んでくれました」


 宮ノ下の笑顔を思い出して、俺も小さな笑みを浮かべた。


 あそこまで喜んでくれるなんて思っていなかったからな。

 素直に嬉しい。


「じゃあ、仕事もがんばりましょう」

「はい!」


 休憩は終わり。

 フロアに出ると……


「じー……」


 いつの間に来店していたのか宮ノ下の姿があった。

 オレンジジュースを飲みつつ、とても不機嫌そうな目をこちらに向けてくる。

 ずずず、とストローを鳴らす。


 な、なんで怒っているんだ?

 先日は、あんなにもごきげんだったのに……


「店員さん!」

「はいはい、なんでしょう?」


 ばしばしとテーブルを叩く宮ノ下に呼ばれ、彼女のところへ。


「この店は、店内で動物を飼っているんですか? ずいぶんなところですね」

「え? そんなもの飼っていないけど」

「飼っているじゃないですか……泥棒猫を!」


 宮ノ下のジト目が先輩に向けられた。


 泥棒猫って……

 先輩のことか?

 どういう意味だ?


「って……もしかして、先輩に嫉妬しているのか?」

「ええ、そうですよ。していますよ。嫉妬していますよ、ぷーっ」

「えっと……」


 悪いことはしていない。

 そもそも、宮ノ下とは男女の関係ではない。


 それでも、こういう時、不思議と悪い気持ちになってしまうのは男だからなのか?


 そういえば、この前のそういう素振りを見せていたな。

 完全な誤解、というか勘違いだ。

 そこを正しておかないと、面倒なことになりそうだな。


「俺と先輩はそういう関係じゃないよ。ただの先輩後輩。で、色々と相談に乗ってもらっているだけだ」

「本当ですか? この前も、やけに親しそうにしていましたけど……」

「優しい人だからな」

「むー」


 納得はしていない様子だ。


 うーん。

 つまらないことでケンカはしたくないんだけど、でも、どうしたらいいんだ、これ?


 悩んでいると、当の先輩がこちらにやってきた。


「お客様、どうされましたか?」

「あなたは……」


 にっこり笑顔の先輩。

 対する宮ノ下は、どこか不敵な感じで挑む。


「この店で泥棒猫を飼っているみたいなんですけど、それってどうなんですかね? とてもいけないことだと思いませんか?」

「あら、そのような事実はありませんよ」

「本当ですか? さっきまで、二人で休憩室でイチャイチャしていたように見えましたけど」


 見えていたのかい。


「ふふ、そうですね。イチャイチャしていたかもしれませんね」

「なぁ!?」


 先輩はいたずらっぽい笑みを浮かべると、俺と腕を組む。


「こんな風に」

「なっ、なっ……」

「今は表に出ているからこれくらいですけど、休憩室は人目がありませんからね。もっと大胆なことも……ふふ」

「あ、あああぁ……私の結城さんが、私の……」

「いやいや、これは……」

「結城さんが汚されてしまいました……私のなのに……」


 宮ノ下が絶望的な表情に。

 なにを想像しているのか、それについては問わないことにした。


 あと、俺は宮ノ下のものじゃないぞ。

 ついでに、どんな想像をしている?

 汚された、ってなんだ、おい。


「ねぇ……せっかくだから、この子の前で見せつけちゃう?」

「え? いや、あの……」

「ふふ、照れないでいいわ。いつもやっていることでしょう……ね?」


 な、なんか先輩の様子がおかしいような……?

 妙に色気があるというか、積極的というか……


 思わずドキドキしてしまう。


「さあ、結城君」

「えっと、その……」

「……なーんて」


 蠱惑的な表情を浮かべていた先輩は、一転して明るい笑顔に。

 それから、宮ノ下に笑いかけた。


「安心してね」

「ふぇ?」

「私と結城君はそういう関係じゃないわ」

「え、でも……」

「ごめんなさい。ちょっとからかっちゃった」

「……」


 宮ノ下は目を白黒させて、


「はぁあああああへぇえええええぇぇぇ……」


 ものすごい脱力した。

 俺とは違う意味で、ものすごくドキドキしていたようだ。


「うぅ、心臓に悪いです……死んじゃうかと思いました」

「そこまで?」

「私にとって、結城さんは片割れのようなものなので。失ったら生きていけないのですよ。ねぇ……結城さん? ふふふ」

「唐突にヤンデレ設定足すのやめろ」

「ちぇ、ダメですか。意外な要素でドキドキさせたかったんですけど」

「しないしない」

「でも、私は本当にあわあわしましたよ……はふぅ」


 宮ノ下は、ほっと安堵の吐息をこぼした。


「ふふ、ごめんなさいね。つい」

「ひどいです、むー」

「でも、そんなに慌てたらダメよ? 女は度胸っていうか、それと似た感じなんだけど、どんな時も冷静でいないと。そうやって優位に立って、相手をコントロールするの」

「む?」

「私でよければ、色々と教えてあげるけど……どうする?」

「おぉ! それは本当ですか!?」

「結城君の攻略方法とか秘密とか、知りたくない? 全部はダメだけど、ちょっとなら後で教えてあげる♪ それと、恋愛テクニックを色々と……ね」

「ごくり」

「大学生仕込みのテクニックはすごいわよ?」

「師匠!!!」


 最初の険悪な雰囲気はどこへやら、二人は妙なところで意気投合していた。


 仲良くしてくれるのは嬉しいけど……

 この二人が組ませたらいけないような気がする。

 とてもまずいことになりそうな気がする。


「じゃあ、まずは結城君の恥ずかしい話でも」

「聞きたいですっ!」

「やめてください……」


 やっぱり、この二人は組ませたらいけない気がした。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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