15話 好きがあふれすぎて
「ただいまー」
私は家に帰り、そんな挨拶をした。
でも返事はない。
パパもママもお仕事。
日によってばらつきはあるものの、帰りは基本的に夜だ。
たまに泊まりもある。
出張で数日、家を空けることもある。
寂しいと思うことはあるし、不満に思うこともある。
でも、私はそれを理由に拗ねたりするほど子供じゃない。
パパとママが働いているのは、私のためだ。
二人のおかげで、私は、何一つ不自由なく暮らすことができている。
感謝することはあっても恨むことはない。
「んー」
自室に移動して、荷物をベッドの上に置いた。
それからラフな格好に着替える。
「……」
普段は夕飯の用意を始めるのだけど……
「んんんぅーーー!!!」
今日はそんな気になれなくて、ベッドの上で転がる。
荷物が落ちてしまうけど気にしない。
ごろごろ。
ごろごろ。
ごろごろ。
枕を抱えて右へ左へ。
足はばたばた。
そして、顔はにやにや。
ダメ。
笑顔が抑えきれない。
「結城さん、結城さん、結城さん……!」
好き。
大好き。
愛している。
ちょー好き!
猛烈に大好き!
ものすごーーーく愛している!
もうダメだ。
『好き』っていう気持ちが次から次に溢れ出して、どうにかなっちゃいそう。
悶えて、にやけて、悶えて……その繰り返し。
ずっとずっと結城さんのことを考えてしまう。
好きすぎておかしくなってしまいそう。
「えへ、えへへへ♪」
ピタリと動きを止めて、プレゼントのショルダーバックを手に取る。
結城さんからのプレゼント。
たぶん……誰かにアドバイスをもらったんだろう。
結城さん……ヒロにしては洒落たものなので、意外なチョイスではある。
でもでも、嬉しい。
誰かに相談したということは、それだけ私のことを考えてくれたということだ。
悩んでくれたということだ。
好きな人が私のために時間を使ってくれる。
これは、女としてとても幸せなことでは?
たまらなく嬉しいことなのでは?
「なーんて、私が女を語るのは早いかもしれないですけどね」
私はまだ小学生。
そこが残念で仕方ない。
「大人の女性だったら、結城さんを誘惑していたんですけど……」
あいにく、今の私はすとーんでぺたーんだ。
うぅ……
成長の遅い自分が恨めしい。
クラスでは、すごく成長の早い子がいるのに。
「でも、諦めません! 小学生としての自分は変えられない……ならば、小学生であることを武器に戦うだけです!」
具体的に言うと、結城さんにロリコンになってもらう。
小さい子……
というか、歳の離れた歳下がストライクゾーンになるように、ちょっとずつ思考を誘導していく。
そうすれば完璧ですね。
私と結城さんのカップルが成立します
うんうん。
これぞ幸せな未来構図。
「でも……」
私はぐるんと転がり、枕を抱きしめた。
「本当に……嬉しかったな」
美味しい料理が食べられるお店に連れて行ってくれて。
プレゼントを用意してくれて。
その後も、私が喜びそうなところで遊んで、楽しい時間をくれた。
普通、ここまでしてくれないと思う。
親しい友達でも、もうちょっと適当になると思う。
それに、私は結城さんに告白している。
女子小学生からの告白なんて厄介事でしかないから、敬遠しようとするはず。
でもそんなことはしないで、こうしてきちんと向き合ってくれて……
私のことを小学生じゃなくて、一人の『女の子』として扱ってくれている。
子供であることを歯がゆく思う私にとって、それはどれだけ嬉しいことか。
そして、一緒にいてくれることがどれだけ幸せなことか。
「ああもう……結城さんは自覚しているのかしていないのかわからないですけど、こんなに私を好きにさせてどうするつもりなんですか? もう……好きで好きで大好きで、おかしくなっちゃいそうですよ」
10秒に一度、結城さんのことを考えてしまう。
声が聞きたくなって、通話料なんて気にせず電話をかけてしまいたくなる。
優しい声が聞きたい。
明るい表情が見たい。
大きな手で頭を撫でてほしい。
それからそれから……
「うううぅーーー!!! はぅうううーーー♪」
妄想を発展させてしまい、私は、再びベッドの上でごろごろと悶えるのだった。
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