13話 あちち
今年の宮ノ下の誕生日は平日だ。
学校が終わってからだとあまり時間がないので、きちんとお祝いをすることができない。
なので、数日早いけど日曜日にお祝いをすることにした。
「おまたせしました!!!」
駅前でのんびりしていると、息を切らせつつ、キラキラ笑顔の宮ノ下がやってきた。
もしも彼女に犬の尻尾が生えていたら、ぶんぶんと振られていただろう。
「まだ約束の時間になってないから、そんなに急がなくてもいいのに」
「なにを言っているんですか! 今日は、結城さんが私の誕生日をお祝いしてくれるんですよ!? お祝いしてくれるんですよ!? 急ぐのは当たり前です!」
大事なことだから二回言ったらしい。
「時間はあるんだから、のんびりいこう」
「いえ、のんびりなんてもったいないです。濃厚で甘くてドロっとした時間を過ごしましょう♪」
「言い方」
「でも、早くても私は気にしませんよ。その分、回数をこなしましょう」
「だから言い方」
というか、本当、最近の小学生の知識はどうなっているんだ……?
偏りがすぎるんじゃないか……?
「おやおや? なにを想像したんですか? 女子小学生にこんなことを言われて、あんなことを想像しちゃいましたか? エッチ♪」
「あのな……」
「でも、私はウェルカムですよ♪ 結城さんなら、いつでもどんなプレイでも受け入れますからね。あ、でも痛いのはちょっと嫌です。やっぱり気持ちいい方が好きです♪」
「そっか、お祝いしてほしくないか。それなら今日はこれで解散に……」
「あわわわ!? 待って、待ってください!? 私が悪かったので、冗談が過ぎたのは謝りますから、すぐ解散なんて殺生なことはしないでくださーーーい!」
ふふん。
いつもからかわれているものの、今日は俺の方が立場は上だ。
誕生日という人質がいるからな。
……とはいえ、女子小学生に口で勝ったからといって、まったく誇れないが。
虚しい。
「じゃ、行こうか」
「はい!」
時刻は昼過ぎ。
まずは、ちょっと遅いご飯だ。
この日のために、美味しいと評判の店を探して、ついでに予約もしておいた。
付き合ってもいないのに気合を入れすぎかもしれないけど……
俺にとって宮ノ下は、それくらい大事な友達だ。
美味しいご飯を奢るくらいはさせてほしい。
雑談をしつつ、目的の店に移動した。
「わぁ……ここ、素敵なお店ですね。お花とか飾られていて、とても綺麗です!」
「女性人気は高いらしいから、喜んでくれてよかった」
「でも、うーん……ここ、なんの店でしょう? チーズの匂いがするのはわかるんですけど」
「グラタンがメインの店らしい。色々な種類のグラタンがあって、あと、トッピングもけっこう自由にできるとか」
「それは楽しみですね!」
『アマリリス』の先輩とマスターに教えてもらったところだ。
今度、なにかお礼をしないと。
それぞれ注文をして、まずは雑談に興じる。
といっても、俺達が雑談をすると、大抵、とある話題に固定されてしまう。
「結城さん、次のエンドコンテンツはどうしましょう? ノーマルはもちろん行くとして、ハイレベルはどうします?」
「んー……次って、フルパーティー三つの24人レイドだよな? かなりの魔境になりそうな気がするんだけど」
「固定を集めるとしたら、相当大変ですね……」
「それな。さすがに24人も集めるのは辛いから、野良か募集になるか。でも、それでクリアーできるのかどうか」
「ひとまず1週間くらい挑んでみて、いけそうならがんばる。ダメそうならすっぱり諦めて、奈落でも挑みますか? 確か、あっちも200層が解放されるんですよね」
「そうしようか」
「そうしましょうか」
ファンネクの話で染められてしまう。
俺も宮ノ下も生粋のゲーマーで、しかも、重度のファンネクファン。
のんびり会話をするとなると、自然とこの流れになってしまう。
色気もなにもないけど……
でも、これはこれで心地いい時間だ。
「おまたせしましたー!」
しばらくして注文したグラタンが運ばれてきた。
たっぷり乗せられたチーズが焦げていて、ゆらゆらと湯気が漂っている。
そして香ばしい匂いがして……やばい、ものすごく美味しそうだ。
「はわー♪」
宮ノ下も瞳をキラキラと輝かせていた。
「「いただきます!」」
これ以上我慢できないと、二人で一緒にグラタンにスプーンを入れた。
そのまま、ぱくりと出来立て熱々を食べる。
「「おぉ♪」」
これまた同じタイミングで声をあげた。
ホワイトソースは濃厚だけど、くどくないのでいくらでも食べられそうだ。
大きな具がゴロゴロと入っていて、溶けたチーズを絡めて食べるのがたまらない。
「これ、すごく美味しい!」
「はい、そうですね! あひゃっ!?」
宮ノ下がはふはふと吐息をこぼしつつ、目をばってんにした。
「あうー……」
「大丈夫か?」
「ついつい一気に食べてしまいました……舌、火傷していませんか?」
宮ノ下は涙目になり、べーっと舌を出して見せてきた。
涙目の小学生。
舌を見せている。
なんていうか……
よくわからないけど、ものすごい犯罪臭がした。
「だ、大丈夫だと思う」
「本当れすか?」
「ああ、本当だから」
「よかったれす」
宮ノ下は舌を引っ込めて、指先で目の端を拭う。
こんなところでドキドキするなんて、俺は変態だろうか?
変態だな……
どうしようもない変態だ……ロリコンかもしれない。
「どうしたんですか、結城さん?」
「……妙な悟りを開いて、虚しく悲しくなったところだ」
「???」
再びジャンル別日間ランキング1位になれました!
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