12話 妹
「私、宮ノ下鈴は、結城直人のことが好きです」
……そんな宮ノ下の想いを改めて聞いて、その翌日。
俺は特になにをするわけでもなく、家でぼーっとしていた。
宮ノ下は、俺が思っている以上に大人だった。
それと同時に子供でもあった。
一人は寂しい。
だから、自分だけの居場所が欲しい。
そんな時、俺が現れて……
意図せず彼女の居場所になった。
好意を持つのも自然だと思った。
「俺、なにができるんだろうな」
宮ノ下のことはまだ、恋愛的な目で見ていない。
親しみは感じている。
ただ、どうしても友達的な感覚が強く、そういう目に変化することがないのだ。
これから先のことはわからないけど……
今はそういう感じ。
ただ、それとは別にして、なにか宮ノ下にしてあげたいと思った。
寂しいと思っているのなら、それをなんとかしてあげたい。
笑っていてほしい。
喜んでほしい。
「友達としては、ほんと、好きなんだよな」
だからなにかしてあげたいのだけど、俺は、なにをしてあげられるのだろう?
どうすれば、宮ノ下はもっと元気になって……そして、笑ってくれるのだろう?
「って、そういえば……」
もうすぐ宮ノ下の誕生日だ。
去年、ゲーム内で盛大にお祝いをしたから覚えている。
「そうだな……うん。せっかくだから、今度はリアルでしっかりとお祝いをするか」
サプライズパーティー……は難しいな。
宮ノ下は小学生だけど、しかし、とても賢い。
こっそりと用意してもあっさりと看破するだろう。
それに、家族仲は良いと聞いた。
たぶん、家族で誕生日パーティーをすると思う。
そうなると、予定が被る可能性がある。
予定が食い違っても困るから、日をずらしてでも、最初から告げておいた方がいいな。
「驚かせるなら……プレゼントかな?」
サプライズプレゼントで驚かせることは可能だ。
指輪とか……
「って、ないない」
それはやりすぎだ。
重いだろう。
「でも……いや、うーん? 最近の小学生って、なにをもらったら嬉しいんだ?」
どうしたものか悩んでいると、インターホンが鳴る。
誰だろう? と不思議に思いつつ、モニターで外を確認する。
『やっほー』
長い髪をツインテールでまとめて、にっこりと笑う女の子。
背は低く、顔も幼く、一目で小学生とわかる。
妹の真白だ。
なんで? と再び不思議に思いつつ、玄関に向かい、そのまま扉を開けた。
「どちらさまですか?」
「おいおいおい、いきなりな挨拶じゃないかー。お兄ちゃんの可愛いプリティな妹、真白ちゃんだよ♪」
「意味、被っているからな?」
「や、それくらいわかってるから。ボケだよ、ボケ。それくらいわかってよねー」
この妹、生意気というか、なんというか……
時折、ものすごくイラッとするんだよな。
「あいたー!?」
しまった。
気がついたらデコピンをしていた。
「なにするんだよー!? お兄ちゃんひどい! ドメスティックアイランド!」
「新型遊園地みたいなこと言うな。バイオレンスな」
「もー、なにするのさー」
「ごめん、つい」
ついつい、というか。
意地悪なのだけど、スキンシップのようなものだ。
妹が相手だと、こんなにも簡単に触れられるのだけど……
宮ノ下が相手だと、絶対に無理だ。
この差は、いったいなんだろうな?
「それで、どうしたんだ?」
「抜き打ち検査。ちゃんとした生活を送っているかなー、って、お母さんに代わって調べに来たのさ! ふっふっふ、恐れるがいい! 泣き叫ぶがいい! しかし、あたしは容赦するつもりはないよ!」
「はいはい、好きにしてくれ」
「あら? 意外と冷静。えっちな本を慌てて隠すとか、そういう展開は?」
「持ってないよ」
最近は電子だ。
PCにはロックがかかっているから、こいつが手を出すことはない。
「んー、つまらないー」
「やましいことはなにもないからな。まあ、好きに調査してくれ」
「ぶーぶー」
食生活はやや偏っているが、それ以外は問題ない。
きちんと掃除はしているし、洗濯もやっている。
散らかっていると気になるタイプなので、部屋はそれなりに綺麗だと思う。
そんな部屋を真白が見て回る。
どこの姑だよ、という感じで、窓の冊子に指を這わせていた。
「汚れていますことよ?」
「そんな細かいところまで、普段、掃除してない」
「雑ぅ」
「他は問題ないから、いいだろ」
「まあねー。確かにきちんとしているみたいだねー。うん、よろしい。合格をあげようか!」
「お前は何様だ」
「妹様」
本気で言っているから手に負えない。
でも……まてよ?
これはこれで、ちょうどいいタイミングなのではないか。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
「なになに? あたしのスリーサイズ? やん、えっち♪」
「黙れまな板」
「ひど!?」
「むしろクレーター」
「陥没はしてないよ!?」
「ブラックホール」
「どういうこと!?」
叩けばいい反応が返ってくる。
この妹、将来は芸人になるかもしれないな。
「ところで……最近、真白の周りではどんなものが流行っているんだ?」
「え、なにそれ? どういうこと?」
「えっと……バイト先で子供向けのキャンペーンをやることになって、みんなでアイディアを考えることになったんだよ。でも俺、小学生の好みなんてわからないから、真白に教えてもらおうと思って」
すらすらと嘘が口から出てきた。
俺は将来、詐欺師になれるかもしれない。
「なるほどねー。そういうことなら協力してもいいよ」
「本当か? 助かるよ」
「ただ……」
「はいはい、今度美味しいものでも奢ってやるよ」
「よきにはからえ♪」
おねだりはいつものことなので気にならない。
父さんも母さんも家で真白のことをとことん甘やかしているから、後で文句を言われることもないだろう。
「んー……それは食べ物? それとも、服とかアクセ? あるいはゲーム?」
「全般的に教えてくれ」
「そうなると、ちょっと量が多いかな。メモの準備はいい?」
「オッケー」
スマホを手にすると、真白は顔をしかめる。
「こらー! メモと言ったら紙とペンでしょ!」
「お前、昭和かよ……」
令和に生きる女子小学生が言う台詞ではない。
「ま、どうでもいいか。それじゃあ……」
そんなこんなで、妹に最近の小学生の流行りを教えてもらうのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、
『ブックマーク』や『☆評価』などをして、応援をしていただけますと嬉しいです!
(『☆評価』は好きな数値で問題ありません!)
皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




