11話 てれてれ
「私、宮ノ下鈴は、結城直人のことが好きです」
彼女は、透き通るような声で告白をして。
宝石のように綺麗な目で、こちらを見た。
正直に言おう。
心がぐらつかなかったというと、嘘になる。
俺は断じてロリコンではない。
同年代……あるいは、一つ二つくらい上の女性が好きだ。
ただ……
こんなにもまっすぐで純粋で、熱くて温かい想いをぶつけられたら、普通は揺らいでしまうだろう?
仕方ないだろう?
「……」
「……」
互いに言葉がなくなる。
ややあって、
「……ひゃぁ」
よくわからない声をこぼして、宮ノ下は顔を明後日の方向に向けてしまう。
その耳はりんごのように赤い。
自分で言っておいて照れたらしい。
年相応に……
というか、普通に可愛いところがあるんだよな。
「……結城さんは」
宮ノ下は顔を逸らしたまま、小さな声で尋ねてきた。
「私のこと……どう、思っていますか?」
「それは……」
「本音をください」
「……大事な友達だと思っているよ」
「そう、ですか……」
「……ただ」
この先は言わなくていいこと。
黙っておいた方がいい。
でも、きちんと彼女と向き合うと決めた。
なら、黙っておくのはフェアじゃない。
「……正直なところ、ちょっと、ぐらりと来た」
「え」
「二度は言わないからな」
「え、え……もう一回お願いします!」
「だから、二度は言わないって」
「ずるいです! ずるいです! もう一回、ちゃんと聞かせてください! あ、今、スマホの録音アプリを起動するので、少しお待ちを」
さも当然のように録音しようとするな。
「……もう言わない」
「……」
宮ノ下は、少しの間ぽかんとして、
「にへ♪」
とても嬉しそうに笑う。
「もう、もう。結城さんってば、そんな風に思ってくれていたなんて。こんなに私を喜ばせて、どうするつもりなんですか? 今なら、お持ち帰り可能ですよ?」
「するか。というか、どこで覚えたんだ、そんな言葉」
「最近の小学生は、結城さんが思っている以上に進んでいるんですよ」
嫌な小学生だなあ……
「もう一度、言ってもらえないのは残念ですけど……でも、よかったです。実はちょっと、諦めかけていたので」
「そう……なのか?」
「はい。あれこれしても、結城さん、いつも平常心というか、フラットな状態じゃないですか? 私のことなんてまるで気にしていないのかな、と」
気にしていないわけがない。
友達として、というだけじゃなくて……
一応、一人の女の子として見ているつもりだ。
……想いに応えるわけにはいかないけど。
「だから、嬉しいです。まだまだ、私にもチャンスはあるんだなー、って。にひ♪」
「はぁ……言うんじゃなかったな」
「もう遅いですよ。結城さんのセクシーボイスは、私の心と脳と魂の深いところに、がっちりぎっちりと刻みつけられました」
「言い方が重い。というか、俺はセクシーボイスじゃない」
「私からしたら、そこらのどのアイドルよりもかっこいいですよ♪」
「そんなわけないだろう? 俺、ただの冴えない高校生だぞ」
「私にとっては、どんなアイドルよりも素敵でダイヤモンドのように輝いている、私だけのスターですね♪」
俺、わりと突き放す時もあると思うんだけど……
彼女はまったく、くじけていない。
むしろ、それをバネに成長して、さらに活動的になっているようだ。
宮ノ下のメンタル、鋼鉄じゃないか?
折れそうになっていたとか、実は嘘だろう?
恋は盲目と言うが……
ここまで好意を寄せられてしまうと、嬉しいのだけど、でも、むずがゆくなってしまう。
ついつい視線を逸らしてしまう。
それをしっかりと見ていた宮ノ下は、ニヤリといたずらっぽく笑う。
「ふふ。結城さん、照れています? 照れていますね?」
「……そんなことないよ」
「またまたー。嘘つかなくてもいいですよ。というか、バレバレです。結城さん、わかりやすくて可愛いです♪」
「男に可愛いは褒め言葉じゃないから」
「私にとっては褒め言葉なので、問題ありません」
もはやなにを言っても無駄だ。
恋する乙女は無敵。
そんな言葉が思い浮かぶ。
「……そろそろ店を出るか」
「あっ、逃げようとしていますね? ずるいです。もっと、私に結城さんを愛でさせてください」
「俺で遊ばせてください、の間違いじゃないのか?」
「それもある意味正解です」
「否定してくれ」
「てへ♪」
ぺろっと舌を出す宮ノ下は、小悪魔そのものだった
でも……
その仕草は可愛らしく、叱る気になれないのが、とても厄介なところだったりする。
はぁ……
俺、自覚はしていないけど、宮ノ下に色々と絡め取られているのかなあ?
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