10話 どこが? こういうところが
食事の後はショッピングモールを見て回る。
特に目的はない。
再び服を見たり、本を見たり、ゲームショップを覗いたり。
ふらふらと散歩感覚だ。
意外と……と言うべきなのか。
宮ノ下と一緒にいる時間は楽しくて、常に笑顔があふれていた。
ゲームでは勢いで結婚したものの、それでも、仲がよくないとそんなことはできない。
なんだかんだ、俺達の相性はいいのだろう。
「ふぅ、今日は素敵な一日でした♪」
陽が傾き始めたところでデートは終わりだ。
俺は高校生。
宮ノ下は小学生。
俺はともかく、宮ノ下は夜になる前に帰らないといけない。
門限だ。
彼女の想いを小学生だから、といってないがしろにするつもりはない。
でも、やっぱり小学生なので帰宅時間などはしっかりしないとダメだ。
「このままホテルに行きますか?」
「行かないから」
「私はいいですよ? きゃっ♪」
「……最近の小学生って、そういうこと、ちゃんと理解しているの?」
セクハラになるか、これ?
「そうですね。ある程度は理解していると思いますよ」
「そうなのか……」
「ネットで簡単にそういうことを調べることができますからね。ネット様々です」
「感謝しないで、なんかイヤだ」
「初心ですね。でも、そういう結城さんもらしくていいです」
にっこりと笑う。
そんな宮ノ下を見ていると、ふと、とある疑問が思い浮かんできた。
「宮ノ下って、基本、俺の言ってることとかに怒ったり疑問を向けたりしないよな」
「そりゃそうですよ。好きな人のことですからね」
「それ、関係ある?」
「ありますよ? 恋は盲目、っていうじゃないですか。恋愛補正がかかっているので、多少、結城さんが変なことをしても許しちゃいます」
マジか。
恋愛補正、恐るべし。
「肉体的に変なことをしてもいいですよ?」
「しないから」
「興味ないですか?」
「今の宮ノ下には」
「しょぼーん……でも、諦めません。興味がないなら興味を湧かせてみせよう、結城さん。というわけで、ロリコンになってください」
「やめて。本当に警察のお世話になっちゃう」
ちょいちょい倫理観というセーフゾーンを踏み外そうとしないでくれるかな?
「それにしても、んー……」
「まだ疑問が?」
「俺がこれ聞くの、どうなのかな、とは思うんだけど……どうして、そこまで俺のことが?」
「好きなのか、っていう疑問ですか?」
宮ノ下の問いかけに頷いた。
ゲーム友達で、ネットではあるものの結婚をした。
やはりゲームではあるが、いつも一緒に遊んでいて、仲はいいと思う。
でも、それが恋に発展する理由がよくわからない。
リアルとネット、その二つは簡単に繋がるものなのだろうか?
「理由を知りたいなら、お話しますよ。そうですね……ちょっとだけ暗い話になってしまいますよ?」
「……宮ノ下がよければ教えてほしい」
「わかりました。実は私……」
ごくり、と息を飲む。
「まあ、特別複雑な事情はないんですよね。てへ♪」
「あのな……」
「昔風に言うと、鍵っ子です。ただ、今の時代、それくらい当たり前ですよね。両親共働きなんてけっこうあることなので、珍しいことじゃないです。家に帰っても一人です。学童保育に預けられている友達もいますね。まあ、私はしっかりしているので、鍵を任されていますが」
「自分で言うか、それ?」
「えへん」
宮ノ下は小さな……というか、ほぼない胸を張る。
ただ、その姿はどこか寂しそうだった。
笑顔のまま。
眉が垂れ下がっていたり、視線が下を向いているわけじゃない。
でも、瞳にいつものキラキラがない。
らしくない。
だから、言葉以上に宮ノ下の想いを大きく受け止めてしまう。
「一人だと、結局のところヒマなんですよ。なにをするにしても、ちょっと虚しいというか味気ないというか……退屈なんです」
「そうだな、わかるよ」
「友達と遊べればいいんですけどね。小学生なので、遅くまでは無理です。夜は、どうしても一人で過ごすことになります。テレビを見たり、スマホをいじったり……色々ありますけど、でも、一人なんですよ。そういう寂しさは消えません」
家で一人で過ごす宮ノ下を想像する。
少し胸が痛い。
「そんな中、ファンネクに出会ったんです。すごく楽しいゲームだ、ってドハマりして、毎日遊んで……そして、ヒロに。結城さんに出会いました」
「大体、1年前だよな」
「はい。わりと早く意気投合して、いつも一緒に遊ぶようになって……だから、理由はそれですね」
「え?」
「恋する理由ですよ。結城さんは……ヒロは、いつも一緒にいてくれました。私がわがままを言っても、怒ることはあっても離れることはなくて、最終的に仲直りをして。一緒に遊びたいというと、いつも付き合ってくれて。エンドコンテンツもそうでした。クリアーまで一ヶ月近くかかる難しく、面倒なコンテンツなのに、私が行きたいと行ったら一緒に来てくれました。私に付き合ってくれましたよね? すごく時間がかかったのに」
「あれは、俺も興味があったから……」
「嘘です。最後はともかく、最初は興味ありませんでしたよね? エンドコンテンツよりもクランハウスをいじっていたいんだ、っていう感じでしたよね?」
俺のことをよくわかっているな。
さすがパートナー。
「お父さんもお母さんも、ちゃんと私のことを大事にしてくれています。私が起きている時は、どんなに疲れていても話をしてくれます。でも……やっぱり、一緒にいることはなかなか難しくて。私は、ずっと一人でした」
「……そっか」
「だから、一緒にいてくれる結城さんに心惹かれたんです」
宮ノ下はそっと自分の胸元に手を当てる。
その奥にある想いを確かめるようにしつつ、言葉を紡ぐ。
「いつも一緒にいてくれるところが好きです」
「私と一緒になって笑ってくれるところが好きです」
「寂しい時、それが当たり前のように私の隣に来てくれるところが好きです」
「ちょっと落ち込んでいる時、元気にしてくれるところが好きです」
「困った時、すぐに助けに来てくれるところが物語の王子様みたいで好きです」
「私のことを一人の女の子として見てくれるところが好きです」
「一緒に歩いている時、当たり前のように私に歩調を合わせてくれるところが好きです」
「わがままを言っても、笑って受け止めてくれるところが好きです」
「どんな時でも、私の心を温かくしてくれるところが好きです」
「優しくて、甘くとろけさせてくれるような声が好きです」
「結城さんのことを考えると、心がぽかぽかするんです」
「いつもあなたのことを目で追いかけて、その声をずっと聞いていたいと思うんです」
「あなたのことを考えない日はありません。毎日、ずっと想っています」
「結城さんがいたから、私の心は温かい春が訪れました」
「テストなんかで会えない日は、すごく寂しくて、ちょっと涙しちゃいました」
「夜遅くまで遊んだ時は、眠気なんて吹き飛ぶくらい、とても楽しかったです」
「学校に行っている時、隣の席が結城さんだったらなあ、なんていう妄想をしてしまいます」
「オフ会をして、実際に会うことになった時は、ものすごくドキドキして、心臓がどうにかなっちゃうかと思いました」
「その綺麗な目を見ちゃうと、頭が真っ白になって、なかなかものがうまく言えなくなっちゃいます」
「いつもドキドキさせられて、平常心を保つのに、すっごくすごく苦労させられているんですよ?」
一通り、想いを語り……
最後に、宮ノ下は頬を染めて、優しく微笑む。
「私、宮ノ下鈴は、結城直人のことが好きです」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、
『ブックマーク』や『☆評価』などをして、応援をしていただけますと嬉しいです!
(『☆評価』は好きな数値で問題ありません!)
皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




