束の間の平和
何重にも封印を施された箱で、魔王の肉片は移送を開始された。
肉片が魔王復活の媒介となるのならば帝国領に置いておいたほうが安全だと判断されたのだ。
護衛のために同じ馬車に乗るのは、一馬、結城、あやめ、静流、シャロ。そしてシャロが捕まえているルルだ。
魔族公の遺体はいくら探しても見つからなかった。
キスクの遺体も、見つからなかった。
なにか事件が解決しきっていないすっきりとしない気持ちが残る。
シャロが、一馬の肩に頭を乗せた。
一馬は、それを愛おしく思う。
「結局なんだったんでしょうね、今回の件は」
一馬の問いに、結城が答える。
「ギルドラの遺体もなくなっている。不死公か遊具公辺りが背後についていたと見るのが妥当か」
「なら、ギルドラ含めて踊らされてたってわけですか」
「愉快な話ではないだわさね」
「もっと修業が必要だな。今回は、最良のチームを組んでやっと倒せたような惨状だ。個人個人のレベルアップが必要となる」
沈黙が場を包んだ。
「見ろよ、一馬」
一馬は、結城に促されて馬車の外を見る。
一馬達の領地とその近隣に住む大勢の人が、紙吹雪を巻いて一馬達を歓迎した。
「今回、俺達が守った束の間の平和だ」
そう言って、結城は一馬に振り返る。
「最高の報酬とは思わないか?」
一馬は、微笑む。
これだから、第一席はこの人しかいないのだ。
「そうですね」
一馬は、しみじみと頷いた。
夏の眩い太陽の光が、紙吹雪を照らしていた。
短いけれど、色々な事件があった。あやめの失踪から不動と共に挑んだ魔物の大軍退治。魔族公との戦いに魔王との戦い。
いつの間にか、遠くに見えていた結城と、肩を並べている気がした。
第九十七話 完
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