あやめの誤算とキスクの誤算
キスクの上半身が斬り落とされる。
それが何度目の斬撃かわからない。
崩れ落ちた上半身から、思いもしない角度でキスクは一撃を放った。
意表を突いたその一撃に、あやめは傷を負った。
右腕の肘から先が切断されたのだ。
一馬は落下していくあやめの腕をキャッチして、あやめに手渡した。
あやめならば治癒も可能だろうと考えたのだ。
「俺が時間を稼ぎます。回復を」
「……思いもよらない攻撃するからね、そいつ」
そう言ってあやめは切断面に腕をくっつける。そして、治癒の光を輝かせ始めた。
シャロとの契約は継続中だ。シャロはまだ生きている。
一馬は大きく息を吸い、吐いた。
いつの間にか完全治癒したキスクが目の前にいる。
「……なんか今一瞬、悪寒がしたなあ。君、一席クラスだろう?」
「さてな。ゾーンに入らせてもらう」
そう宣言した瞬間、一馬はゾーンに入っていた。
駆け寄り、剣を振るう。
上腕から脇腹までを斬り、足から腰までを斬った。
キスクは驚愕に目を開く。
そして、一馬は放った。
覇者の剣固有の必殺技を。
光刃が敵を飲み込んで、消滅させていく。
魔族公戦の前に消耗したくはなかったが、他に方法もなかった。
一馬は座り込み、息を吐く。
「すぐに俺は二人を追います。あやめさんは完全に腕くっついてから来てください」
一馬は立ち上がり、すぐに駆けていった。
「了解」
あやめは一つ息を吐いて、その場に座り込む。
その時、思いもしないことが起こった。
粉々になったキスクの破片。それが、集まりあい、一つの形を成したのだ。
あやめは慌てて立ち上がる。
「今の奴は要注意人物だな。リストに追加しておこう」
そう言って、キスクは少し不快げに本を呼び出し、そこにメモを書く。
そして、彼が本を閉じると、それは消えた。
「さて、第二席。腕がくっついたと言ってもまだ感覚は戻らぬだろう?」
キスクは周囲を見渡して、自分の剣が消滅していることを理解し、愕然とした表情になる。
「肉弾戦は生々しい感触が戻って嫌なんだけどなあ……」
そう呟くと、彼は拳法の構えを取った。
あやめは立ち上がる。腕はくっついたが、確かにまだ神経が繋がっていないようだ。感覚がない。
しかし、それでも気丈にあやめは刀を握った。
「時間稼ぎでもなんでもいいからやってやるわ! かかってくればいいじゃない!」
キスクは目を大きく見開いて拍手をすると、飛びかかってきた。
そこを、光刃が走った。
光刃はキスクを飲み込み、そのまま城の入り口を粉々に破壊した。
「大丈夫か、あやめ!」
「そんなに息切らして。やっぱり心配してくれるのね、ダーリン」
結城が心底嫌そうな顔になったので、あやめは苦笑した。
「冗談は置いておいて、こいつ、この状態からでも再生するわよ。どうする?」
「結界による封印。ここしばらくそれを研究していた。試してみよう。お前は一馬の援護に行ってくれ」
「わかった! すぐ来てよね!」
「善処はする。約束はできないな」
「だよねえ」
そう言って、あやめは駆け出した。
利き腕の感覚は、まだない。
第九十三話 完
次回『再会』
次回からついにギルドラとの決戦の幕が上がります。




