表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/200

王都決戦の前に

 王都までの道は確保できた。

 敵が進軍してくるかはわからないところだ。

 ただ、帝都十剣の実力を知った今、兵を送ってくるかは怪しいところではあったが。

 そのまま、地下へ帰るのではないかという楽観論すら出始めた。


(気が緩んでいる……)


 一馬は焦燥感にかられながら、会議室に入る。


「おう、一馬か」


 テーブルの上の地図を見ていた結城が、振り向く。


「どうも、結城さん」


「今回の事件もついに詰めだよ」


「皆、呑気なものです。酒を飲み剣を振り回して怪我人まで出ている」


 結城は苦笑する。


「長い緊張感から抜け出せたんだ。許してやってくれ」


「それで、約束ですが」


「ああ、覚えている」


 結城は頷いた。


「お前とシャロを率先的に魔族公の前に送る」


「シャロの姉は結界を使うだろうから、同じ結界使いの俺が適任だと思うのです」


「第二席の意見だからな。尊重するさ」


 そう、結城はからかうように言う。


「さて、どう出るかな。兵を展開するような愚は避けてくれるとありがたいのだが」


 砦に篭っていたのは五千。国境に配備されていた五千と合わせて一万を超えた。

 その分、兵糧の消化速度は深刻で、本国には追加の兵糧を要求している状態だ。


「勝てますかね」


 一馬は、不安を滲ませて言う。


「勝つんだよ」


 そう言って、結城は軽く一馬の胸を叩く。

 一馬は、不安がどこかへ飛んでいくような気持ちでいた。


「そうですね」


 その時、部屋に入ってくる者があった。


「お邪魔するだわさ」


 静流だ。


「ギルドラの城へ行くなら私も連れて行ってほしいだわさ」


「しかし、君は近接戦ができないだろう?」


 結城が、戸惑うように言う。


「剣の手ほどきなら一通り受けているだわさ」


 静流は退かない。


「ただ、扱いやすい剣が欲しい。魔法を使える私なら剣一本で十分だわさ」


 一馬と結城は顔を見合わせる。

 それを、静流は鋭い眼光で射抜いた。


「足手まといになることを心配しているなら大丈夫だわさ。私も空を飛べる。いつでも脱出はできるだわさ」


「まあ、城内で範囲攻撃の専門家がいるのはありがたいかもな。俺や一馬ではそこまで加減ができん」


 そう言って、結城は歩き始めた。


「剣を選びに行くぞ」


「そうこなくっちゃだわさ」


 そう言って、静流は上機嫌で結城についていった。

 地図には、城と、砦が描かれている。

 その上には、とつ型の駒が置かれ、それは敵軍側に四つ。自軍側に三つ置かれている。


 ただでさえ、人間は魔物に比べ、脆い。

 勝てるのだろうか。

 そんな不安が、一馬の心を占めた。




+++




 待機室に入ると、シャロが猫モードで布団の上でごろごろしていた。

 その顎を撫でてやる。

 シャロは気持ちよさそうに目を細めると、ベッドに座った一馬の膝の上によじのぼった。

 そして、喉を鳴らし始める。

 上機嫌の証だと言われているが、何故膝に乗ったぐらいで上機嫌になるかは一馬は今ひとつわからない。


「人間モードになれよ、シャロ」


「ん? 猫モードじゃ不服かにゃ?」


「ちょっと話し辛い。人間の君と話したい」


「んー。まあいいかにゃ」


 そう言って、シャロは人間モードになる。

 一馬の体に、温もりと、彼女の柔らかな体が触れた。

 一馬は、箱を一つ取り出した。紙の箱だ。


「なに? それ」


「コンドームだ」


 淡々とした口調で一馬は言う。しかし、心臓は今にも喉から飛び出そうだった。


「こんど……む?」


 箱から包みを一枚とってシャロに見せる。


「いいか。これを使うと、あれをしても子供ができない」


「あれ……あれ……」


 なにを言いたいのか思い至ったらしく、シャロは顔を真っ赤にして一馬を殴りにかかった。

 その腕を軽く掴み、一馬はシャロの唇に接吻する。


「今日が俺達の初夜だ」


 シャロはしばらく縮こまるようにしていたが、そのうち一馬の顔を見て苦笑した。


「忘れられないだろうね。こんな切迫した状況で、なんて」


「今は休憩時間だ。王都十剣の第一席と、結城さんが方針を決めるまではのんびりしていよう」


「……何回するつもりなの?」


「どうだろうなあ」


 一馬はとぼけた。

 シャロは顔を赤くして、小さくなってしまった。

 その柔らかい体を、一馬は強く強く抱きしめた。




第九十話 完




次回『準備期間』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ