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人対人

「今日の日のために準備は整えてきたつもりだ」


 不動はそう言って、部隊の先頭に立つ。

 背後の兵は、軽く見積もっても二千。

 帝都十剣には貴族の位もついてくる。そして、貴族は兵を指揮する権限も持つ。

 四位以下の指揮権限は、兵三千だったはずだ。


「一馬。お前の出番はないかもしれない」


 不動は口数が多い。緊張しているかもしれない。


「作戦がはまることを祈ろう。俺はそれで不服はないよ」


「変わった男だな」


 不動は苦笑して言葉を続ける。


「お前ほどの力があれば手柄をたてようと躍起になってもおかしくなかろうに」


「愛と平和が俺の信条なんだよ。気にしないでくれ」


「愛と平和、か……」


 不動は、ぼやくように言う。


「随分外れた場所に来ちまったもんだな」


「そうだな」


「早く家に帰って本でも読みてえところだ」


 大軍の声が聞こえてきた。


「来なすったぞ」


 一本道と言っても、直線ではない。

 途中、ところどころうねりがある。

 だから、山に隠れて敵兵はまだ見えない。


 ただ、見えた時が決戦の始まりなのだろうという予感がある。

 声は近づいてくる。


 そう遠くない未来にここに来るだろう。

 十秒が経った。二十秒が経った。

 まだか。

 数秒が何十分にも長く感じられる。


 そして、王国軍の先頭が現れた。


「全軍後退!」


 不動が指揮を取る。

 全軍、前を見たまま後退を始めた。


 王国軍は前進する。

 背後には魔物軍が見える。

 止まれば踏み殺される。

 理不尽な話もあったものだ。


 そして、王国軍が山道を抜けた。

 その途端に、地面にできた穴に落下した。

 魔物軍は慌てて足を止める。

 その頭上に、山から土砂が雪崩落ちてきた。


「土属性も結構使えるもんだなあ」


 そう不動は自画自賛する。

 岩の不動。相棒の猫はキジトラ。

 攻撃や破壊を得意とする猫だ。



+++



 結城の目の前で、数千の王国軍が地面に落下した。そして、その背後の魔物軍が土砂崩れで生き埋めになった。


「……死者は出てないかな」


 結城は呟くように言う。


「加減はして穴を開けたつもりです」


 愛は、そう言って縮こまる。

 控えめな態度からは想像もつかないが、彼女は土のエレメンタルマスター。その魔力は絶大だ。


「さて、仕事をしに行くか」


 そう言って、結城は歩き始める。

 そして、穴の前で足を止めた。


「投降してくれないかな。投降すれば身の安全は保証する。魔族公討伐の後には国に帰すことも約束しよう」


「殺してくれ!」


「家族が人質に取られているんだ!」


「俺達を戦わせてくれ! 首をくれ!」


 地獄のような悲鳴が次々に重なる。


「人質は我々が開放した」


 結城は大声で告げる。

 王国兵は目を丸くした。


「君達に魔物達に従う理由はない」


「……本当か?」


「一時しのぎの嘘をついてどうなる」


 しばしの沈黙があった。

 しかし、それは喝采となって周囲を包んだ。


「俺達はあんたに従おう。その前に、地面を上げてくれ。魔物軍と戦いたい!」


「それはできない相談だ」


 そう言って、結城は剣を持ち上げる。

 その刀身は、淡い光を放っていた。



+++



 土砂崩れに巻き込まれた魔物軍。

 しかし、その怪力により脱出しつつある。


「行けるな、勇者」


「その勇者ってのは気恥ずかしいからやめてくれ」


 不動は苦笑する。


「行け、一馬」


 一馬は剣を掲げた。

 白い光が周囲から集まり剣に宿る。

 そして、一馬の剣からは光刃が放たれた。

 巨大なそれは、完全に魔物軍を喰らい尽くした。


 少し離れた箇所からも、光が迸ったのがわかる。

 多分、結城なのだろう。


 こうして、なんとか人対人は避けられたわけだが、まだ王国内で奮戦中の部隊などの救出をしなくてはならない。

 初戦は勝ったが、これからはまだまだどうなるかわからない。

 けど、自分と結城がいれば、勝てない敵なんていない。

 一馬は、そう思った。



第八十七話 完

次回『枷は解かれた』

次週も数話投稿予定

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