廃村にて
目を開いた瞬間、眩い日光にさらされた。
そうか、こちらの世界は昼なのか。そんな実感が遅れて湧いてくる。
背後には粉々になった岩。
前には、大々。
一馬は、口を開いた。
「状況を説明してくれ」
猶予はない。覇者の剣越しに伝わった情報ではそんな風に感じられた。
「あ、ああ。三日前に同盟国のグランエスタの王都が魔物に攻められて陥落した。グランエスタでは人間軍も兵を集めて決戦の準備を整えているが敗色は濃厚だ。そして、人間軍が負けたなら……」
「帝国が狙われるというわけか」
「そういうことだ」
今まで帝国が無事だったのは帝都十剣の存在があったからだ。
そのクラスの人材を用意するのは難しい。
結界が弱まっているのではないか、と結城は考えた。
その考察は正しかったのだろう。
「あやめさんが失踪したというのはどういうことだ?」
「隣国の様子を見に行く、とふらりと十剣の制服も着ずに出かけてそれきり。音沙汰なしだ」
「そうか……あやめさんに限って捕まるようなヘマもしまい」
「しかし、連絡が取れないのは事実だ」
「うーん……」
「準備を整えたらグランエスタの魔物軍は帝国に攻めてくる。第一席からの言付けで、国境警備隊に入るようにとのことだ」
「わかった。地図で場所を教えてもらえばすぐに行くよ」
一難去ってまた一難。この事態の解決には、根本的に魔界と人間界を隔てる結界の存在が必要不可欠だろう。
誰がそんな結界を張れる?
考えていると頭が痛くなりそうだった。
「敵軍の総大将はわかっているだわさ?」
静流が、珍しく神妙な表情で問う。
「魔族公」
「ギルドラか……」
静流は溜息を吐いた。
「とりあえずは国境警備隊と合流しよう。遥、静流を頼めるか?」
「了解」
そう言って、遥は静流を抱きかかえた。
肩のキャロルが、器用に腹の上へと移動する。
「生きて帰れよ、一馬」
大々が不安げに言う。
いつもは背を叩かれる彼に、返すように背を叩く。
「任せろ」
そう言うと、一馬はシャロを抱きかかえて、宙へと跳躍した。
シャロはずり落ちかけた帽子を慌てて抑える。
「地図は?」
「あ、ああ。これだ」
そう言って、大々は地図を広げた。
険しい山々の間に通る二本の道。その手前にバツがある。
「わかった。じゃあ行ってくる」
そう言って、一馬は不条理の力で宙を駆け始めた。
手に、汗が滲んでいるのがわかった。
第八十三話 完
土曜の更新は二話です。
いつもに比べて少ないですが、日曜日にも更新しようと思います。
次回『帝都十剣第二席 天剣の一馬』




