緊急要請
夜中に、雑音がして、一馬は目を覚ました。
シャロ、遥、静流も同じようだ。
雑音は、家の物置からしていた。
よく聞けば、人の声だ。
物置にはしっかりと鍵がかかっている。
仕方がないので、一馬は父の部屋に忍び込んだ。
父が物を隠しそうな場所は大体わかっている。
やはり、手帳の下に小さな鍵を発見した。
鍵を、開ける。
覇者の剣が輝いていた。
「一馬! 聞こえるか一馬! お前の助けが必要なんだ! 魔物達がもうすぐこちらまで来る!」
「大々か?」
「聞こえたか、一馬! 今、隣国のグランエスタが堕ちて敵はこちらに向かおうとしている。第二席は失踪しているし、第三席は皇帝の護衛をしなければならない。お前の助けが必要なんだ!」
「一馬……」
シャロが不安そうに一馬を見る。
「平和な夢を見た」
一馬は、独白するように言う。
「ここでシャロ達と共に暮らし、穏やかな生活をする夢を」
キャロルが大きな欠伸をする。
それでも大人しく、静流の腕の中に抱かれていた。
「それも、ここまでだ」
一馬は手を掲げた。
「覇者の剣よ、待たせたな。俺達をお前の世界に飛ばしてくれ」
覇者の剣は、一馬の声に応えるように一際強く輝いた。
そして、光が弾けた。
+++
シャロがいない。
そうと気づいて、双葉は部屋を出た。
仏間の布団も空で、兄の部屋にも誰もいない。
庭の方で、光が一際強く輝いた。
別の世界へと消えていく兄と、一瞬、目があった。
「生きて、戻って!」
双葉は、涙が一筋目から流れ落ちるのを感じた。
一馬は微笑んで、頷いた。
第八十二話 完
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