表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/200

父と母と一馬とシャロと

 居間で、一馬は両親と向かい合っていた。

 隣では、黒いワンピースに身を包んだシャロが、居心地悪そうに肩をこわばらせている。


 沈黙が、場を包んだ。


「あの、私、一馬さんと結婚させていただきます、シャーロットと申します。シャロとお呼びください」


「異国の方か」


「あ、けど、私はこの言語しか使えないです、はい」


 再び、沈黙が漂った。

 父が大きく息を吐いた。


「いや、よく来てくださった。この一馬という男は喧嘩とサボりばかりが上手い男でな。それが腰を据えて落ち着くことにしたという。まことにめでたい」


「そんなこと、ないです」


 シャロが、微笑んで言う。


「一馬は誰にでも優しいし、少し変わったところがあっても差別しないし、勝てないような相手にも勇敢に挑みかかる。私は一馬以外の結婚相手は今となっては考えられません」


 父が目を丸くした。


「その優しさ故に、争いごとに巻き込まれることがあってもか?」


「それは、触れ合って、矯正していけたらと思っています」


「そんなこと考えてたのかお前」


「結婚するってことは腰を落ち着けるってことだよ、一馬」


 シャロは飄々とした口調で言う。


「そうか……理解者を得たのだな」


 父はそう言って微笑むと、立ち上がった。


「母さん、行こう。仏間に布団を敷いた。客人はそこでゆっくり休むといい。一馬、お前には話がある。道場でしばらく待っていろ」


 そうして、両親は行ってしまった。


「認めてもらえたのかな……?」


 シャロが不安混じりに言う。


「今にもシャロを抱きしめんばかりに認めてた」


 一馬は苦笑交じりに言う。


「私もお母さんに結婚報告しなきゃなあ。手紙でも書くかなあ」


 そう、シャロは遠くを見て言った。

 一馬は無言で、その肩を抱いた。



+++



 父は道場にやってくると、竹刀を一馬の前に置いた。

 そして、自分の分の竹刀も用意する。


 一馬はなにも言われずとも、竹刀を構えて立った。

 道場の匂い。竹刀を持った父。全てが懐かしい。

 居心地の良さを感じるほどに。


「見たことのない型だ……しかし、隙がない」


 父は感心したように言う。

 そして、竹刀を構えた。


「以前はまったく竹刀を持たなかったお前だが、刀を扱う世界に行って一年と数ヶ月と言ったな」


「ああ、言った」


「なら、その修練の成果を見せてみるがいい」


 気になっていたことがあった。

 不条理の力を使えない。

 この世界では、不条理の力は条理に組み込まれていないらしい。


 しかし、一馬にはゾーンがある。

 父は竹刀が振り下ろすと同時に、一馬はゾーンに入った。


 遅い。

 昔はあれほど鋭く感じた打ち込みが、今は緩く感じられる。


 軽く避けて、面を打った。

 父は唖然とした表情になる。


「なるほどな。速度反応技術全て既に私を超えているようだ。よくぞそこまで……」


「良い師匠がいたんだ」


「一年と数ヶ月、か……」


 父は天を仰いで噛みしめるように言うと、一馬を見た。


「それで、お前はどちらの世界を選ぶ気なんだ?」


 父の言葉に、一馬は返事を失った。


「この世界は、確かに一度お前を裏切った。けど、優しかったこともあったはずだ」


「俺は……」


 一馬は言い淀む。


「まあ、結論は急がんさ。未だに信じ難い荒唐無稽な話だしな。ただ……」


 そこまで言うと、父は竹刀をしまった。


「どこの世界にいようと、お前に理解者ができたことはわかった。正直、安心した」


 そう言って、父は去っていった。

 父には悪いが、一馬の気持ちは決まっている。

 魔界に脅かされているあの世界を守らねばならぬのだ。

 ただ、いればいるほど郷愁に胸焦がしている一馬がいた。



第八十話 完

次回『シャロと双葉』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ