失踪
その夜は中々寝付けなかった。
明日に式があるので、それも当然だ。
家を歩いていると遥と鉢合わせした。
「よ」
「うん、こんばんは」
そして、数秒沈黙が漂った。
「今回は苦労したね」
「今回も、だな」
二人して苦笑交じりの表情になる。
「そういえば昔から思ってたんだけど」
「なあに?」
「お前の次元突ってどこの世界と繋がってるんだ?」
遥は、虚を突かれたような表情になり、腕を組んだ。
「考えたことなかったなぁ。あの小さい突きの穴でも維持は大変だし」
「なら、私が手伝ってあげるだわさ」
静流がいつの間にか近づいてきていた。
「私の魔力を遥に送る。それで、ちょっとは無茶ができるようになるはずだわさ」
「嫌だなあ。魔界とかに繋がってたりしたらピンチじゃない」
「その時はその時で閉じればいいだわさ」
静流は随分乗り気なようだ。
「それじゃ、やってみるか」
遥は、渋々といった感じで刀を鞘から抜く。
そして、それを構えると、何もない空間を突いた。
空間に穴が開き、それがどんどん広がっていく。
そうして現れた光景に、一馬は息を呑んだ。
一馬が生まれた世界か、それにごく近い世界だ。
アスファルトの道路とフェンス。曲がり角に設置されたミラー。植えられた街路樹。
一馬は、次元の穴に触れた。
その途端に、一馬の体は穴に吸い込まれた。
「一馬?」
遥が、焦るように言う。
「どうしたの?」
人間モードのシャロが寝ぼけ眼で近づいてくる。
そして、シャロは盛大に転んだ。
二人と一匹は体勢を崩して、遥と静流の肩の上の猫ごと穴の中に吸い込まれていった。
第七十七話 完
次回『家路』
更新日です。六話ほど更新しようと思います。




