月夜
庭の縁側に座り、夜空を眺める。
遠くには山が見え、満月が輝いているのがわかる。
最近、虫が増えてきた。
夏になりつつあるのだろうと思う。
シャロは隣で舟をこいでいる。
その体を、そっと抱き寄せる。
明日は結婚式だ。
それがどういうわけか話が膨らんで、今回の戦いの観戦者が集まるだとか、刹那の家のシェフが料理を作りにやってくるだとか、どんどん話が大きくなっていく。
どうしたものだろうな、と思う。
「二人と顔見知りでそっとしたかった感はあるな」
「刹那も結城も日の当たる道を歩く人だからね。そういう発想はないんじゃないかな」
「それもそうか」
二人して、しばらく黙り込む。
気まずい沈黙ではなく、むしろ居心地のいい、お互いの体温を感じることに集中しているような沈黙だった。
「全部一馬のおかげだわ。全部、全部」
「俺一人じゃなにもできなかったよ。遥、静流、師匠、そしてシャロ。皆がいて今がある」
「うん」
「式、こうなったら開き直って楽しもう。シャーロット」
「そうだね」
シャロはくすぐったげに笑った。
一馬とシャロは、幸せの中にいた。
+++
鬼人公、狼公、不死公は魔族公の居城を訊ねていた。
長いテーブルがある部屋で、一番奥の椅子に座る魔族公を睨みつける。
「どういうつもりだ」
鬼人公斬歌の第一声がそれだった。
「どういうつもりだ、と言うと?」
「人間界を襲ったそうじゃないか。それも、三千の軍勢で」
「間違いはないか?」
狼公マーナガルムが疲れたような口調で言う。
「間違いは、ない」
魔族公は悪びれもせず言った。
「いいだろう。お前達には見せておこうではないか」
そう言って、魔族公は腰を上げる。
そして、召使に言って、人がすっぽり入るような箱を持ってこさせた。
三公は箱の中を眺める。
肉塊、としか言いようのない存在が脈打っていた。
「これは……一体……」
「気配の濃さは三者ならばよくわかるだろう」
魔族公は満足げに言う。
「我々の指導者だよ」
そう、魔族公は言った。
三公は目を見開く。
沈黙が、その場に漂った。
第七十六話 完
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