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ハードルの高い余興

「余興をしようと思う」


 結城がそう言い出したのは、村に到着した翌日の朝のことだった。


「余興?」


 リビングで寝ているシャロの毛づくろいをしていた一馬が問う。


「ああ。面白い余興だ。近隣の町から人も呼べると思う」


「それは魅力的ですね」


「そうだろうそうだろう」


 そう言って、結城は一馬の肩を抱く。


「で、その内容はというと?」


「十剣対一馬。勝てなきゃ結婚できません」


 一馬は絶句する。


「本気ですか?」


「本気だ」


「やめましょうよ」


「もう各地に使者も出した」


「結婚どころか命の危機なんですが」


「真剣は使わない縛りだ。キュアーと断界も使用禁止。俺も出場を自粛する」


「……痛いだろうなあ」


「大丈夫だよ」


 結城は微笑む。


「お前はお前が思っているより強くなっている。勝てるさ」


「……上手く言いくるめられている気もしますが」


「まあ、楽しい余興だ。十剣の面々にもいい刺激になるだろう」


「……気乗りはしませんが、ここまでお膳立てが揃っているなら参加しないわけにはいきませんね」


「その意気だ」


 そう言って、結城は一馬の肩を何度も叩いた。

 なにやら雲行きが怪しくなってきた気がする。


 夜になってシャロにその話をすると、シャロは自信なさげに俯いた。


「一馬にとっては、勝てないほうがいいかもしれない」


「今更なに言ってんだお前は」


 呆れ混じりに一馬は言う。


「だって、私は猫よ。一馬の子孫も残してあげられないわ。一馬なら選び放題なのに、不釣り合いすぎる」


「それでも、俺はお前を選んだ」


 そう言って、一馬はシャロをお姫様抱っこして立ち上がる。


「愛してるぜ、シャロ」


 シャロは目を潤ませて、一馬の肩に顔を埋めた。



第七十二話 完

次回『一馬対十剣』

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